顧客と1対1で対話する「 クライアンテリング 」 が、デジタル全盛期でもブランド最大の武器になり得る理由
テクノロジーの発展による新たなクライアンテリング
新しいテクノロジーはクライアンテリングに新しい時代をもたらした。ローレンハーゲン氏は「シア─(Seer)」というプラットフォームを使用しており、これによって販売員がテキストを入力できるルックブックを作成したり、顧客情報ややり取りを追跡したりすることができるという。近年には、2021年に1億ドル(約153億円)以上でフィンテック企業のクラーナ(Klarna)に買収されたeコマースファームのヒーロー(Hero)のように、似たようなテクノロジープラットフォームも登場している。同氏によると、一部のハイエンドなクライアント企業のなかには、購入履歴や興味データを記録するのに紙とペンを使うようなアナログの方法を好む人がいるという事実があるにもかかわらず、である。 主要なクレジットカードおよび金融機関のすべてで採用されているセキュリティ基準「ペイメントカード業界データセキュリティ基準(Payment Card Industry Data Security Standard、PCI DSS)」では、クレジットカード番号など特定の顧客情報を紙で保管することを明確に禁止している。代わりにこれらの情報は、デジタルセキュリティ保護の下でデジタル化して保存する必要がある。 「古いスタイルのクライアンテリングを維持するには、乗り越えなければならないハードルがたくさんある」とローレンハーゲン氏は話す。「そのため、これまでのやり方に慣れている年配のスタッフを抱えるクライアントに対しては、現在のやり方を教えなくてはならない」。 同氏によると、eコマースと実店舗のどちらのブランドにとっても、対面または電話による1対1の顧客対応が依然として優れたクライアンテリングサービスの基準であるという。
情報が溢れる世界で価値があるのは「1対1」の対話
時計ブランドのシチズン(Citizen)を手がけるシチズンウォッチアメリカ(Citizen Watch America)でプレジデントを務めるジェフリー・コーエン氏は、クライアンテリングは商品を購入する人だけのものであってはならないと語る。たとえばシチズンでは、時計の修理のために店舗に来店する顧客に対してクライアンテリングの提供をはじめることがよくあるという。実際、そうすることが同社の小売戦略の中心となっている。時計の寿命は何十年にもおよぶため、シチズンに初めて来店する理由は、新しい時計を購入するためではなく、ほかの人から受け継いだ古い時計の修理をするためであることが多い。 「時計は世代を超えるものだ」とコーエン氏は話す。「人々は皆、祖父が持っていた時計を好んでいる。顧客が来店した際にはコンシェルジュサービスが利用できる。顧客にじっくりと向き合い、当ブランドを紹介する」。昨年、シチズンは前年比15%増という記録的な利益を達成した。 ロックリンジョセフ創業者のマホン氏は2017年までスウェーデンのデニムブランドであるヌーディージーンズ(Nudie Jeans)で働いていたが、このときにも修理を求めて初めて来店した顧客向けにクライアンテリングサービスを提供しはじめることが戦略のひとつだったという。 「クライアンテリングは、小売戦略というよりも、コミュニケーション戦略やマーケティング戦略として捉えるべきだ」と同氏は語った。「当社がブランドコンサルティングを行う際には、クライアンテリングを小売シナリオだけに限定しないようにと伝えている。ソーシャルメディアの世界で情報が氾濫している今、顧客との1対1の対話は貴重で、投資する価値があるものだ」。 [原文:One-on-one clienteling is still a brand's best friend] DANNY PARISI(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:都築成果)
編集部