中東の危機拡大は阻止できるのか うごめく「抵抗の枢軸」 本気で参戦なら戦闘拡大?
■武装組織を支援する“神の国”
こうしたパレスチナの「ハマス」、「イスラム聖戦」、レバノンの「ヒズボラ」、イエメンの「フーシ派」、イラクやシリアの民兵組織など、中東各地の武装勢力の後ろ盾となっているのが、イランだ。イランはこうした武装組織を支援し、「抵抗の枢軸」と呼ぶイスラエル包囲網を築いてきた。 国際戦略研究所によると、イランの兵力は60万人以上で、イランが開発する最新のミサイルや無人機などが武装勢力に渡っているとされる。 そもそも中東社会には、「パレスチナ人を追い出して建国したイスラエル」との認識に基づいた歴史的な怨念と怒りが渦巻いている。パレスチナ人がガザ地区北部から避難する光景は、1948年の独立戦争でイスラエルが勝利した後、70万人以上がパレスチナ難民としてガザ地区に強制移住させられた彼らにとって、思い出したくない歴史の一場面を想起させるものだったに違いない。ガザ地区の住民は、この強制移住を「アル・ナクバ(大災厄)」と呼んで、この時の記憶を胸に刻んでいるという。 万が一にも「抵抗の枢軸」が本格的に参戦するようになると、緊張は一気に高まる。 23年12月にはイランの精鋭部隊「革命防衛隊」が、「抵抗の枢軸」を支援する任務にあたっていた隊員2人がイスラエルによる空爆で死亡したと発表した。 また、イランの国営通信は12月25日、イスラエル軍がシリアの首都ダマスカスを空爆し、イラン革命防衛隊のムサビ上級軍事顧問が死亡したと報じた。国営テレビはイラン革命防衛隊の「イスラエルはこの犯罪の代償を払うことになる」とのメッセージを伝えている。 これまでイランは直接的な軍事介入は行わない考えを示してきたが、今後の動向次第では、アラブの周辺国やイスラエルを支援するアメリカを巻き込んで、中東全体に戦闘が拡大していく危険性もある。
■女性の抗議運動で犠牲者も…「反イスラム」の動き
イランは、統治者が神の代理人として絶対的な権力をもって支配する「神権政治」の国だ。パレスチナの解放とイスラエル国家のせん滅を優先政策として掲げている。 ただ、イラン国民は必ずしも「パレスチナ支持一辺倒」というわけではない。イスラエルとハマスの戦闘が続く中、イラン国民の多くは戦闘で多くの犠牲者が出ていることを批判しているという。 イランでは22年以降、女性の自由や独立の権利を求める抗議運動が続いていて、政府の弾圧により、多くの死者が出ていることも、イスラム政権への反発を招いている。「抵抗の枢軸」を束ねるイランの中にも“これ以上、流血の惨事を引き起こす反ユダヤ主義を続けるべきではない”と考える人が増えているという。 多くの火種を抱え、常に衝突の危険をはらんでいる中東にこうした考えを持つ人々が増えていることは、先の見通せない情勢において一筋の希望と言えるかもしれない。