『光る君へ』吉高由里子がまなざしで表現する“終わり” まひろを変える周明との再会も
『光る君へ』(NHK総合)第45回「はばたき」。まひろ(吉高由里子)の源氏物語が終盤を迎えた。ある日、まひろは娘・賢子(南沙良)から宮仕えをしたいと相談される。そしてまひろは、太皇太后になった彰子(見上愛)に仕えることを賢子に提案し、自身は長年の夢だった旅に出る決意を固めた。しかし道長(柄本佑)はまひろの決意に反対する。 【写真】まひろ(吉高由里子)との別れを思って涙目の道長(柄本佑) 物語序盤では、亡き一条天皇(塩野瑛久)の第一皇子である敦康親王(片岡千之助)が21歳でこの世を去るという悲しい出来事が描かれた。政の世界から離れ、心穏やかな日々を過ごしているように見受けられたが、「道長によって奪い尽くされた生涯」と表されたこともあり、そのひそやかな最期が切なかった。 喪に服す彰子とそれを見つめるまひろの姿が映されたのち、まひろは『源氏物語』を書き上げる。まひろの物語も終わりを迎えた。まひろは書き上げた物語を手に取ると、心の中で「物語は、これまで」と呟く。吉高の台詞の言い回しや物語を感慨深く見つめるまなざし、思わず感情がこみ上げてきて目に涙が浮かぶも、ふっと笑った様子などに、まひろが自らの役目にはっきりと区切りをつけたことがうかがえた。 第45回では、自らの生き様に一つ区切りをつけるまひろの姿が心に強く印象を残した。特に、道長と言葉を交わす場面では、彼女の意志の強さがこれまで以上にひしひしと伝わってくる。 まひろは賢子が宮仕えをするのをきっかけに、旅に出ることにした。道長は倫子(黒木華)がいる前では「気を付けて参れ」と送り出すが、まひろの局で2人きりになると「行かないでくれ」と伝える。まひろにとって道長が大切な存在であることに変わりはない。だが、「これ以上、手に入らぬお方のそばにいる意味は何なのでございましょう」という言葉もまた本心だ。まひろは道長への感謝の意を伝えつつ、「違う人生も歩んでみたくなった」と語る。まひろは物語が終わりを迎えたのと同じように、どんなに思い合っていても決して結ばれることのない間柄にも線を引くと決めた。その芯の強さに感じ入る。 また、先の台詞の後、間を置いて賢子にまつわる秘密を語り出す吉高の演技が心にグッとくる。束の間、心ここにあらずな表情を浮かべたかと思うと、ほんの少し顔をこわばらせ、意を決したように「私は去りますが、賢子がおります」「賢子は、あなた様の子でございます」と口にする。かつてまひろは道長から「不義の子を産んだのか?」と問われ、「一たび物語になってしまえば、我が身に起きたことなぞ霧のかなた……」とはぐらかしていた。吉高はこの場面でこまやかな演技を見せる。紙をなでる指先や道長の目をみているもののどこか遠い目つき、道長が去った後の視線の揺れ動き、硬い面持ち。この時はまだ、本当のことを伝えるべきかどうか迷いがあった。しかし自ら終わりを決めた今は違う。だからこそ、「賢子をよろしくお願いいたします」という言葉には、言葉以上の意味と重みがある。 道長はそんなまひろの手を取ると、真剣な顔つきで「お前とは……もう会えぬのか?」と言った。まひろは道長の言葉を受けて、じっと見つめ返す。吉高のまなざしには、心の底から愛おしく思う相手に別れを惜しまれたことで、その強い思いに飲み込まれそうになる心の揺れ動きが感じられた。それでもまひろは自らの意志を貫く。 「会えたとしても……」 「これで終わりでございます」 道長の手をつき返し、しっかりと別れを告げたまひろの姿は胸を打つ。加えて、潔くその場を立ち去るまひろと、1人その場に取り残され、悲しみに沈む道長の対比が良い。別れの余韻だけでなく、2人にとってお互いの存在がどれほど重要で、大切で、苦しいものだったかを思わせるもので、心に沁み入った。 物語にも、道長への思いにも一区切りつけたとはいえ、まひろにとって何かを終えることは何かを始めることでもある。旅に出たまひろの表情は清々しい。須磨の海岸で駆け出すまひろは解き放たれたように軽やかだった。大宰府では無邪気な笑顔を浮かべ、街の賑わいに心を躍らせる。第45回のタイトルが「はばたき」であることにうなずける。 そんな第45回は、かつて越前で別れた周明(松下洸平)との再会で幕引きとなった。大宰府ではどんな物語がまひろを待ち受けているのだろうか。
片山香帆