「韓国が納得するまで謝る」イシバは“第2のハトヤマ政権”だ… 尹錫悦が期待する根拠
NATOとOSCEを勘違い?
――「集団的自衛の組織というよりも集団安全保障的機能に重きを置く」とは? 鈴置:軍事同盟というよりも信頼醸成を図る組織、と言いたいのだと思われます。でも、それならNATOではなく、アジア版OSCE(欧州安全保障協力機構)と書くべきでしょう。OSCEならロシアも加盟していますから、「アジア版」に中国を入れてもおかしくない。 ――なぜ、アジア版OSCEと正確に書かないのでしょうか。 鈴置:よく分かりません。石破氏の安保に関する知識が乏しいからか、それ以外に理由があるのか。しかし、このくだりにより石破氏には、ますます反米媚中派の烙印が押されました。 米国も日本も中国も加盟するという軍事機構、アジア版NATOの実現可能性は限りなくゼロに近い。その意味では害がない。一方、「加盟国がお互いに信頼を高め合う」アジア版OSCEには賛成する国も出てくるでしょう。米中の間で洞ヶ峠を決め込んでいる国は多い。韓国などは真っ先に参加するはずです。 ――なぜ、アジア版OSCEを唱えると反米媚中になるのでしょうか? 鈴置:日米同盟をはじめとする米国のアジア各国との同盟の意味を一気に薄めかねないからです。ある同盟を消滅させるために、皆が集まって安全保障を担保する機構を作る、という手法があります。典型的な例が、日英同盟を破棄させるために米国が使った四カ国条約です。 米国が主導して日米英仏が1921年に調印、1923年に発効しました。太平洋の現状維持を目的に掲げ「排他的な2国間の同盟を廃し、問題が起きた際には会議を開いて協議する」ことを取り決めました。
日英同盟の破棄を狙った四カ国条約
――石破氏が好きそうな文句ですね。 鈴置:四カ国条約の謳い文句もいかにもそれらしかったのですが、本当のところは国力を増す日本を抑え込もうと、米国が日英同盟を破棄させるために実現した、と言われています。 ――現在に引き落とせば、日米同盟や米韓同盟の破棄、希薄化につながるわけですね。 鈴置:その通りです。欧州ではNATOという確固とした多国間同盟が存在するので、OSCEが既存の同盟を破壊する道具にはなりません。 しかし、アジア版NATOがないところにアジア版OSCEを作ったら、米国を中心とする同盟のネットワークが揺らぐ可能性が大きい。石破氏がどう呼ぼうが「アジア版なんとか」は米国にすれば日本の反米媚中政治家の唱える陰謀に見えるのです。 米国にすれば「またか」といった感じでもあります。鳩山政権が発足直後から「東アジア共同体構想」を打ち出した。「日本と中国、韓国が核となって地域統合を目指す」構想でしたが、米国排除の色合いが濃かった。 米国はもちろん、アジア各国から相手にされませんでした。実現性の低さから、鳩山政権からラブコールを受けた中国さえも「寝言」扱いしました。石破政権の「アジア版NATO」が米国はもちろん、アジアからも冷笑されているのと同じ構図です。