「名残を惜しむ暇ない…」元力士、第2の人生は140年続く実家の食堂から 市民に愛される味を守り続けたい
大相撲三段目力士「満津(まつ)田(だ)」こと松田誉彦(たかひこ)さん(29)が先場所限りで引退して故郷の飯田市に戻り、約140年続く実家の食堂「満津田」(主税町)の店頭に立っている。100キロの巨体で機敏に動き回り、配膳や洗い物もこなす。「とても忙しいので、力士生活の名残を惜しむ暇もないです」と笑顔を見せつつ、「6代目として地元に愛される味を守り続けたい」と決意を新たにしている。 【画像】力士時代に着用していた帯を活用
相撲部屋への入門は、食堂の客に峰崎親方の後援会関係者がいたのがきっかけ。親方が来店し、中学生の頃から誘われた。親は心配したが、自分の力を試したいと飯田工業高(現飯田OIDE長姫高)卒業後に門をたたき、2013年春場所でデビュー。実家暮らしで家事の経験はなかったが、部屋の土俵近くに布団を敷いて午前5時に起きる生活が始まった。
部屋のちゃんこ作りを担当し、30人分を3人がかりで作る。支援者の差し入れる食材の管理も仕事。無駄にしないように魚はすぐさばき、肉は部位ごとに切り落とす。野菜の漬物や煮浸し、ポテトサラダなど、すべては「勉強だと思って作った」。丸刈りで入門後、まげが結えるようになって帰省すると、道で「お相撲さんだ」と言われた。力士になったと実感した。
思い出深い取組は17年秋場所の三段目優勝決定戦。国技館全体の視線が集中し「歓声で土俵が震え、体に振動が伝わった。これまでの土俵とは全然違った」。敗れたが、多くの人に「見たよ」と声をかけられた。「恩返しできたような気がしてうれしかった」
生涯通算成績は67場所230勝231敗1休。星一つ負け越した。「全く意識していなくて、終わってから言われた。最後勝っておけば勝ち越せた。詰めが甘いとよく言われます」と笑う。唯一の休場は21年九州場所中日8日目。肉離れで歩けず休場したが、ファンを裏切ってしまったと感じた。痛み止めを打ち、次の土俵に復帰。年齢を重ねて傷が増えたが「出続けることに意味がある」。そこから引退まで休まず出場した。