能登半島地震で液状化の被害。助け合い精神の繊維業者、県の支援受けて再建目指す
■トレーラーハウスの手配に奔走 液状化は、被害を大きくするとともに、早期の再建を著しく困難にしている。 同じくかほく市大崎地区で操業する「亀井重繊維」(亀井重春社長)では、工場とつながっていた自宅部分が側方流動によって県道に向かって倒れかかった。自宅と隣接する工場内の事務所部分も損壊し、自宅とともに取り壊しを余儀なくされた。幸い、機械が置かれていた工場建屋の主要部分は著しい被害を免れたが、二十数センチメートルの傾斜が発生した。
その後、事務所は、避難先として新たに借りた自宅に移設。加工場は取引先の一角を間借りし、行き来を繰り返している。「現在、工場では事務所スペースがないため、注文の電話が来た際には、外に出て通話をしている状態。雨や雪が降ると仕事にならない」(亀井社長)。 そこで亀井社長はトレーラーハウスを手配してこの冬を乗り越える算段だが、「入手には時間がかかりそうだ」という。現在、残った建屋部分では8台の機械がフル稼働しているが、能力に余裕がないため「試作品の作成ができず、柔軟に対応できない」という。
それでも、事業を続ける方針に変わりはなかったのは、後継ぎで専務取締役の亀井重和さんへのバトンタッチができているためだ。重和さんはすでに15年の経験を持つベテランに育っている。亀井重繊維も「なりわい補助金」を活用して地盤補修を実施し、再建を目指す。 「当社が手掛けている細幅ゴム入り織物の需要がなくなることはない。多品種・短納期に徹することで、生き残りは可能だ」 中村編織工業の中村修一社長はこう言い切る。大崎地区に立地する同社では、約30人の従業員が働いている。液状化で工場の建物が50センチメートルほど傾斜したが、機械を据え付けてあるエリアの被害が少なかったことが幸いし、1月5日に操業を再開した。
水道の復旧は5月までかかったが、その間、近隣の井戸から水をくんで台車に載せて運んだ。被害の大きかった亀井重繊維には機械などを置く作業スペースを提供し、操業再開を支援した。 かほく市大崎地区では多くの住宅や工場が液状化の被害に遭い、いまだに本格再建の見通しは立っていない。中村編織工業でも、液状化した地盤の調査はこれからで、建屋の修復方法はまだ決まっていない。それでも各社は復興に向けて少しずつ歩を進めている。
「さまざまな業種、企業がお互いに助け合うことで、産地は成り立っている」と中村修一社長は説明する。苦難の中でも関係者の士気は高い。それが復興の原動力となっていることは間違いない。
岡田 広行 :東洋経済 解説部コラムニスト