固体潜熱蓄熱材で電源を安定化、多機能の超小型人工衛星「DENDEN-01」の全貌
大電力が必要なS帯通信をキューブサットに搭載、小型省電力無線も
DENDEN-01は、電源安定化デバイスとIMM3J太陽電池パネルによって、従来の超小型人工衛星よりも大きな電力を安定的に得ることができる。その大きな電力を活用できることを示す機器となるのが、メインで用いる2GHz帯を用いるS帯通信と、バックアップと地上に設置したセンサーの情報を収集する用途で搭載した920MHz帯の小型省電力無線である。 これら通信機能の開発と運用を担当するのがアークエッジ・スペースだ。S帯通信は、東京電機大学鳩山地上局と、アークエッジ・スペースが2023年度に開設したばかりの牧の原地上局のパラボラアンテナを用いる。また、920MHz帯の小型省電力無線は、S帯通信が利用できないときの衛星へのコマンド/テレメトリー通信のバックアアップの他、海や地上に置かれた小型の送信機からのデータを衛星を用いて収集するS&F(Store and Forward)通信として利用する。 DENDEN-01は、福井大学 産学官連携本部 特命准教授の青柳賢英氏が開発したハイパースペクトルカメラを搭載している。独自のリニアバリアブルバンドパスフィルターを組み込むことで、外形寸法3.6×3.6×2.4cm、重量35gという小型化を実現しており、キューブサットであるDENDEN-01への搭載も可能になった。なお、一般的なハイパースペクトルカメラの重量は数kgということで、超小型人工衛星へのハイパースペクトルカメラの搭載も初の事例になるとみられる。 なお、DENDEN-01における大電力を消費する機器としては、S帯通信が3~5W、ハイパースペクトルカメラが画像処理ボードを含めて約3W、小型省電力無線が1Wなどとなっている。
プロジェクトリーダーが宇宙機開発経験ゼロなのに1年半で解決できた理由
これらさまざまな目的やミッションを遂行すべく開発されたDENDEN-01だが、プロジェクトリーダーの山縣氏は化学系の研究者であり「宇宙機開発については全く経験がなかった」(同氏)にもかかわらず、一般的な超小型人工衛星の開発期間が2~3年であるのに対し、約1年半で開発を完了したことも重要な成果となっている。 この短期開発は、福井大学とセーレンが福井県内の宇宙産業に携わる人材の育成を目的に開発した学習用超小型衛星「EDIT」をベースにしたことで実現できた。山縣氏は「潜熱蓄熱材の衛星開発への適用で、2021年12月に『J-CUBE』プログラムに応募して採用されたものの、当時はISSの運用期限が2024年とされていたため、2年以内に衛星を開発する必要があった。そこで、衛星開発を何度も経験している福井大学の青柳先生に相談し、EDITを活用することを決めた」と説明する。 EDITは学習用ではあるものの、重量、構造、電源などはISS放出規格に適合しており、宇宙実績部品も多数使用しているため「少しの工夫で宇宙に打ち上げられる人工衛星のフライトモデルを開発できる」(青柳氏)ものだった。 学習用超小型衛星のEDITから追加したのは、大電力のための3面展開型太陽電池パネルの他、高速のS帯通信機、アンテナ、各種ミッション機器などで、搭載電子機器やシステムアーキテクチャはEDITをそのまま利用した。実際に、学習用超小型衛星の経験がない山縣氏や関西大学のメンバーは、EDITを活用したハンズオントレーニングを実施した上で、DENDEN-01のエンジニアリングモデル(EM)、そしてフライトモデル(FM)の開発と製造に進んでおり、これらの活動がシームレスにつながったことも1年半という短期開発の要因になったとする。 今回のプロジェクトを経てEDITは、学習用モデルをベースにしたキューブサットプラットフォームへの進化を果たしており、従来の学習用モデルに当たる「EDIT-E」に加えて、標準的なキューブサットとなるスタンダートモデルの「EDIT-S」、DENDEN-01と同様に3面展開型太陽電池パネルやS帯通信機などを搭載するハイグレードモデルの「EDIT-H」などを展開していく方針である。
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