私たちはこれからどんなツケを払うことになるのか…なんと11年に及んだ「異次元緩和」がもたらしたもの
史上最大級の経済実験
--あしかけ11年にわたって行われた「異次元緩和」ですが、一般の理解は十分ではありません。史上最大級の経済実験とも呼ばれる「異次元緩和」とはどのようなものだったのでしょうか? 山本:日銀が2013年の4月から開始した金融政策を異次元緩和と呼びます。いわゆるリフレ派の主張を強く色濃く反映した金融政策で、私なりに要約しますと、その考え方の柱は大きく分けて3つあります。 第1は、日本経済の停滞の原因は、デフレすなわち持続的な物価の下落にあるという現状認識です。第2の柱は、日銀の責務は、その物価を押し上げることつまり物価目標を達成することにあるという信念です。第3は、物価を押し上げるには、市場に資金を大量に供給して、同時に「物価目標を必ず達成する」と国民に約束するというアプローチです。こうした考え方に基づいて、黒田東彦前日銀総裁は以下のような目標を掲げました。 「〈資金の供給量を約2倍に増やすことによって物価目標を2年程度で必ず達成する〉と日銀が約束すれば、国民がこれを信じて、人々のインフレ心理が高まり、実際の物価も上がる」。異次元緩和は、このように極めてシンプルなシナリオに基づいて行われた政策でした。 ただし、このシナリオは、過去に実証されたことがないもので、それゆえ実験的な金融政策と呼ばれました。 --実験的な金融政策、異次元緩和の評価については、専門家の間でも意見が大きく異なります。いわゆるリフレ派は「異次元緩和」の効果を高く評価して、長く低迷してきた日本経済を復活させたように言っていますが、山本さんはどう評価されますか、異次元緩和は本当に成功したのでしょうか? 山本:もともと2年程度での期限で、目標の達成を目指すという政策が、(目標を達成できずに)11年間も続けられてきたわけですから、その一事を持ってしても、この政策が成功ではなかったことは明らかです。黒田日銀総裁は前任の白川総裁までの金融政策を「小出しである」「戦力の逐次投入である」と批判し、異次元緩和では「必要な政策を全て講じた」とまで言い切りました。 にもかかわらず、最初の9年間は、出だしこそ良かったものの、物価はなかなか上がらず、自ら否定していた政策の逐次投入を行うことになりました。ただし、小出しではなく、黒田バズーカと呼ばれた、市場にサプライズを与えるような大がかりな政策を次々に投入しました。こうした経緯を踏まえても、黒田日銀が根拠とした「日本経済の停滞の原因は、デフレすなわち持続的な物価の下落にある」という見立てが、見当違いだったように思えます。 私は、日本経済の抱える問題は、金融緩和の不足にあったのではなくて、生産性の低下によるものであったと理解しています。異次元緩和は、市場への介入を強めた結果、金利や為替市場の機能を著しく低下させ、日本経済の新陳代謝を著しく阻害したと考えています。 藤巻:山本さんのおっしゃったことはまさにその通りですが、私は異次元緩和には、財政危機を先送りする隠された意図があったと考えています。ちょっと過激な見立てなので、日銀OBの山本さんは否定されるかもしれませんが…。