「べらぼう」安田顕「平賀源内にはつらいことも笑い飛ばして生きられるような力がある」
――他にもキャラクター作りとして何かやっていることはありますか? 「源内は、いち早く万歩計を取り入れた人で、外国から輸入した一点物の万歩計を腰に着けているんです。なので、歩くシーンの時に、監督が『源内さん、ここ歩きますからね!』と。そういう時は、ちょっと歩いてセリフをしゃべって、万歩計をちらっと見たり。物語上は必要ないんですけど、視聴者は『今あの人何見たんだろう』と気になるじゃないですか。そういう小道具などが本当に抜かりなくて、全部使うことができる状態にしてくれていますね。すごいなと」 ――視聴者の方には、細かいこだわりも探しながら見ていただきたいですね。 「そういうことにしといていただけますか。カットされているかもしれないですけど(笑)」 ――源内の数ある偉業の中で、特にすごいと思ったものを教えてください。 「お話をいただいた後に、ふるさとの香川の平賀源内記念館まで行ったんです。源内はベストセラー作家だけでなく、鉱物の発見、皆さんご存じ『土用の丑(うし)の日』などのキャッチコピーを作ったり、絵も描くし、いろいろな面を持っていて。記念館にもいろんなものが置かれていたんですけど、その中に、少年時代に作った『お神酒(みき)天神』があって。お神酒を置くと糸が引っ張られて、掛け軸の中の天神の顔が赤くなるというなんてことない仕掛けなんですけど。源内少年は、これを作った時に、大人たちが喜んでいる姿を見て快感を覚えたのかなと。彼が、いろんなものを発見したり、好奇心を持って生きていくものの一番最初のきっかけなのかなって、見た時に思ったんです。そういう意味で印象に残っています」
――主演の横浜さんの印象を教えてください。 「役に対してもすごく真摯(しんし)で、真っすぐですし、実直でナイスガイですね。やっぱり、1年半通して作品を背負うわけですから、それに見合う器で、周りが見えている方ですよね」 ――源内にとって蔦重はどう見えていると思いますか? 「僕は今年で51歳なんですけど、若さがあふれていて、まだ決まっていない夢を見て、歯を食いしばって笑い飛ばして生きている人たちってすてきじゃないですか。源内が会った時の蔦重もまさにそうですよね。源内は高松藩を脱藩しますが、『ここだけにお抱えになるのは嫌だ、もっと広くいろんなものを見たい、才能を認められたい』という思いがあったと思うんです。それで、江戸に行きますけれども、一番いい時に一つ器を変えて冒険に出るじゃないですか。そんな源内が、吉原の中で奉公人だけれど『これから本屋として頑張りたいんだ!』とギラギラしているエネルギッシュな人間を見たら、若い時の自分に照らし合わせて、応援したいという気持ちになるのは必然だと思います。そういう応援したくなるようなエネルギッシュさは、横浜さんからも感じています」 ――今作の世界観の中で魅力的だなと思うところはどこですか? 「やっぱり町人文化が花開いていくところだと思います。田沼時代の財政改革の結果、町人たちがどんどん勢いづいて、浮世絵などの江戸文化が飛躍的に生まれて。江戸の町人文化は、当時だったらサブカルチャーだったと思うんですよ。それが受け継がれて、今やカルチャーになっている。とにかく勢いがあってエネルギーがあふれている時代だった。鎖国の中で、インバウンドではなく“アンバウンド”で、自分たちの国の中から文化を生み出していくエネルギーにあふれて輝いている時代があったんだよということをドラマで伝えて。嫌なことやつらいことがあったとしても、奥歯をかみ締めて笑って、『よし、明日も働こうぜ』って。きついこともいっぱいあるだけだろうけど、見方を変えれば、全員で楽しいことをやれば、結構面白いんじゃないの? という印象がドラマの根底に流れているような気がしています」