1つの作品から始まった“アート沼”。気鋭の日本人コレクターの心を捉えるものとは?
――アートを購入するにあたっての、自分なりのジャッジポイントのようなものはありますか? 「美しい、おもしろい、よく考えたな、とかケースバイケースですね。僕の場合、アーティストと話をして買うのが好きなのですが、コレクションを本格的に始めてすぐコロナ禍になってしまったので、海外のフェアに行けなかったり、日本のギャラリーでの海外作家の個展も減ってしまって、特に海外作家の場合は作品だけで判断する機会が増えたんです。そんななかで、その作家がどこの美術館に収蔵されているかなど確認しながら、どれくらいのキャリアを持っている人なのか、まだ新人なのかなど、アーティストのステージを把握するようになりました。 その上で、特に作家として評価が確立する前の状況なら、買うときに一層気合を入れて、それでも買うのかを自分に問うわけです。キャリアがしっかりあって多くの有名な美術館に入っているなら、作家としての評価がもう大きく崩れることはないのですが、若くて注目度上昇中という、美術業界的にはまだこれからという場合は、作品の購入がより応援的な意味合いが強まることになりますから。その場合は資産的な価値を期待せず、もし後から評価や価格が上がってったらラッキーくらいの気持ちでいないといけない。その辺をどう判断して購入しようとしているのかを、もう一人の自分が冷静に見つめるようにはしています。 その上で結局いいと思ったら腹を括って買う。考えなしに衝動的に買って『また、やっちゃったかな……』とか後から考えたくないですから(笑)」 この展覧会T2 Collection「Collecting? Connecting?」展では世界で活躍する日本の現代美術家である小林正人、宮島達男、名和晃平らもいるし、ベルナール・フリズ、バリー・マッギーなどコレクターならいつかは自分のコレクションに加えたい作家の作品がある。 その一方で多分に特徴的でもある。やんツーのミニ四駆の作品を展示するあたりは少年っぽさが伝わってくるし、長田綾美のファブリックを使った作品は、会場全体の空気を和ませてくれてもいる。中にはそれほど著名でない作家も含まれているが、それが高橋さんのセレクトであり、それによってコレクションとしてもオリジナリティが立ち上がってくる。 コレクションをするときは「耳だけで買うな、目で買え」と言われる。これは世間や先人の評判を聞いて、それにとらわれて買うのではだめで、自分の目で見て、感動したり、感心したりしたものを買わないといけないという戒めである。高橋さんはそれを実践しているのがコレクションから伝わってくるのである。 後半では、ご自宅におじゃまして、展覧会に出しきれなかった作品などを見せてもらい、さらにコレクションについて、深い話を聞いてみたい。 T2 Collection「Collecting? Connecting?」展 会期:~2025年3月16日(日) 開館時間:火~日 11:00~18:00(最終入館17:00) 休館日:月曜(祝日の場合、翌火曜休館)、年末年始(12月27日~1月6日) 入場料:一般 ¥1,500、大学生/専門学生¥800、高校生以下 無料 高橋隆史/Takafumi Takahashi ブレインパッド共同創業者・取締役会長、一般社団法人データサイエンティスト協会代表理事。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程の修了後、外資系コンピューター会社を経て起業家に。ビッグデータ及びAI活用を推進するブレインパッドは2社目の起業にあたる。現代アートの購入は、友人の誘いで2018年から開始。
TEXT=鈴木芳雄