俳優神太郎さんを悼む 談志師匠の弟子「柔道一直線」の黒井先輩 大いに語り、大いに飲んだ
俳優の神太郎さんが、今月7日に亡くなった。82歳だった。 生前に何度か酒席を共にさせてもらった。今年も5月に東京・渋谷伝承ホールで上演された舞台「後鳥羽伝説殺人事件」の稽古を取材した後に酒を飲んだ。4月23日、錦糸町の居酒屋だった。 神さんは大学卒業後、7代目立川談志師匠に入門。1968年(昭43)にラジオ関東の深夜番組のDJとなり俳優、タレントへ。69~71年のTBS系連続ドラマ「柔道一直線」で主役の一条直也(桜木健一)が通う桜丘高校柔道部の主将・黒井淳先輩を演じた。 「もう30歳に近いおっさんなのにさ、高校生やったんだよな」と笑っていた。80年代にはテレビ東京系の「クイズ地球丸かじり」のリポーターとしても活躍した。 談志師匠に弟子入りしたくらいだから、毒の効いたウイットに富んだ話しが大好きだった。記者が89年(平元)にインタビューした時の話をすると、すごく喜んでくれた。銀座でラジオの公開収録を終えた談志師匠にあいさつして、向かい合うと開口一番「これってギャラは出るのかい」と聞かれた。ドギマギしながら「コメント料として1万円ぐらいなら払えます」と答えると「よし、なら有料の仕事だな」と、その後の30分間、身ぶり手ぶりでお願いしたテーマについて話くれた。名人の話術を1対1で30分も堪能した。「そうなんだよ、談志師匠はそういう人なんだよ。ドッキリさせて、サービスしてくれる」と豪快に笑いながらジョッキを傾けた。 ラジオのDJをやっていただけに、芸能界の裏話も好きだった。同席するのは真面目な舞台関係者が多かったが、最後の酒席ではジャニーズ問題、松本人志問題について大いに語り合った。 俳優、そして演出家として活躍する鼓太郎(54)をかわいがっていた。「鼓太郎はさ、芝居の世界を引っ張っていく人間なんだから頼むよ」と口にしていた。まさしく、子供の頃に見た「柔道一直線」の黒井先輩のように熱い心を持った、包容力のある人だった。 豪快に笑いながらジョッキを傾け、大いに語る神さんの姿が、今も目に浮かぶ。しばらくの間は、まだまだ献杯の日が続く。ご冥福を祈ります。【小谷野俊哉】