ウェルスマネジメントの“ショッピファイ化”──Eコマースで起きた変革が到来
ショッピファイ(Shopify)がEコマースを民主化し、何百万人もの人々がオンラインストアを開設できるようになったのと同じように、各種オンチェーンツールは金融アドバイザリービジネスへの参入障壁を下げようとしていると、ミゲル・クドリー(Miguel Kudry)氏は述べている。 ● Shopifyが登場する以前、Eコマースサイトの構築と運用は費用がかかり、運用には手間がかかり、商品の保管・発送は大変な作業だった。大規模な顧客ベースに対応できるオンラインストアを構築・運用できるのは大手の小売業者であり、Eコマースは小さな市場に思えた。そこに登場したのが、Shopifyだった。 Shopifyは供給の制約を排除し、製品を持つ人なら誰でも数回クリックだけでオンラインストアを作成し、グローバルに拡張できるようにした。巨大な新市場が生まれ、現在では同社の時価総額は1000 億ドル(約14.9兆円、1ドル=149円換算)を超えている。 登録投資顧問(RIA)会社の立ち上げ・運用・拡張は、Eコマースよりも難しいが、それでもアドバイザーは米国の全資産の半分以上を運用する責任を持つ立場にある。 2023年現在、米証券取引委員会(SEC)に登録されたRIAは1万5000以上を数え、100兆ドル(1京4900兆円)以上の資産を運用している。資格および免許は、事業を始めるにあたってファイナンシャルアドバイザーを目指す人が満たす必要がある、増え続けるチェック項目のほんの一端に過ぎない。
ウェルステックとデジタルネイティブの顧客層
ウェルステックは非常に細分化されている。カストディアンは顧客を囲い込み、運用・法律・コンプライアンスについて膨大な要件を課す。さらにさまざまなレイヤーの仲介業者には、運用を続けるだけでも追加費用がかかる。これが、この分野において、既存インフラと規模の経済を活用して運用資産残高(AUM)を増やす大企業に小規模なRIAが買収され、統合が増えた理由だ。ベビーブーマーからミレニアル世代およびZ世代への富の世代間移転は、こうした戦略に挑むことになるだろう。若い投資家たちは、伝統的金融に失望している。若い投資家たちはデジタルネイティブであり、自らの持つお金と資産とが等価、つまり手数料がかからないことを望む。 こうした背景から、ウェルスマネジメントはShopify化しようとしている。ShopifyがEコマースを民主化し、何百万人もの人々がオンラインストアを開設できるようになったのと同じように、各種オンチェーンツールは、金融アドバイザリービジネスの扉を開こうとしている。 米暗号資産取引所コインベース(Coinbase)の調査によると、アメリカ人の20%(約5200万人)が暗号資産を所有している。資産をチェーン上に保有する自由とパワーを経験すると、オフチェーン資産、つまり伝統的プラットフォームからしかアクセスできない資産に対する見方が変わることは多い。今や史上初めて、アドバイザーは顧客と連携し、常に顧客が管理・保管する資産についてアドバイスを行うことができる。 伝統的RIAは、伝統的カストディアンと提携している。顧客がアドバイザーと連携するには、アクセス権を割り当てるか、アドバイザーが資産を運用できるよう新しいアカウントを作成する必要がある。一方、セルフカストディは新しいパラダイムを切り開く。単一のウォレットで複数のアドバイザーとやり取りできるようになり、同じポートフォリオにさまざまな種類のアドバイスや専門知識を加えることができる。資産はカストディアンに依存することなく管理でき、裁量権を単一のオンチェーン署名で付与できるため、アドバイスに必要な時間は数週間から数分に短縮される。