【第1回】もしも新選組が「相対主義」だったら……!?(前編)──『君たちはどの主義で生きるか ~バカバカしい例え話でめぐる世の中の主義・思想』より
人気作家のさくら剛さんが、世の中の「主義・思想」をユーモアたっぷりに、そして皮肉たっぷりにご紹介する哲学・超入門エッセイ。価値観が多様化する現代、人生というダンジョンに地図もなく放り出された私たちは、これからどう生きるべきか? 第1回では、「相対主義」について取り上げます。 *本記事はさくら剛氏の著書『君たちはどの主義で生きるか ~バカバカしい例え話でめぐる世の中の主義・思想』(ウェッジ)の一部を抜粋したものです。 最初に紹介するのは、「相対主義」です。 【画像】【第1回】もしも新選組が「相対主義」だったら……!?(前編)──『君たちはどの主義で生きるか ~バカバカしい例え話でめぐる世の中の主義・思想』より 唐突ですが、私は一時期、新選組にハマっていました。 なんと言っても「池田屋事件」がシビれます。京都の警備隊である新選組が、旅館・池田屋に乗り込んで、テロの謀議をしていた尊王攘夷派の志士たちを叩きのめした事件です。 新選組はなんと、たった4人で大勢の敵の中に斬り込んだのです。戦いの中で沖田総司は病のため吐血、藤堂平助は額を斬られて危機一髪となりましたが、ああもうダメだっ、やられる‼と思ったその時、土方歳三率いる新選組別働隊が到着。長州や土佐の攘夷派志士たちを一網打尽にすることができたのです。 新選組のドラマや小説で池田屋のシーンが出て来るたび、毎回私は大興奮でした。うおぉ~行け新選組‼ テロリストどもをぶった斬れ‼ ああっ、沖田が血を吐いてる! がんばれ沖田! 負けるな沖田‼ もうすぐ土方さんが加勢に来るぞ‼ ファイト新選組!!! ……と、必死に新選組を応援したものです。 ところが。 その後、私は一転して、坂本龍馬にハマりました。
龍馬は尊王攘夷派の仲間なので、そちら側の視点では、新選組は憎い敵になります。 それから龍馬のドラマや小説で池田屋のシーンが出て来るたび、私は逆の大興奮です。ウオォ~行け尊王攘夷派志士‼ たった4人で殴り込みとはナメ腐りやがって新選組‼ 権力の犬どもなど革命戦士・攘夷派が返り討ちじゃっ!!! おっ、よっしゃ、沖田が血ぃ吐きやがったぞ‼ ざまあっっwww!!! 今やっ、その軟弱野郎を囲んで串刺しやっ!!! おいっ、藤堂平助の額斬った奴、まだ藤堂生きてるやないか‼ もっと顔面真っ二つになるくらい気合い入れて叩き割らんかいっ!!! 確実に殺さんかい藤堂のボケをっっ!!! 急げっ、もうすぐ土方のボンクラが仲間のチンピラを連れて加勢に来るぞ!!! 負けるな尊王攘夷派志士‼ ファイト尊王攘夷派志士‼ ……と、我を忘れて志士たちを応援したものです。 で、その後また新選組のドラマを見ると、 このドグサレ尊王攘夷どもがっっ!!! 徳川様に弓引くカス侍どもは地獄の制裁を受けろやっ!!! ああっ沖田大丈夫か~~っ、がんばれ、俺がついてるぞ‼ 土方さんが来るまで踏ん張れ‼ 負けないでもう少し最後まで走り抜けて沖田~~っ‼ I was born to love you 沖田~~~っ!!! と……(以下略) ………………。 とまあ、そんな口の悪い日和見を繰り返しつつ、最終的には「新選組も攘夷派志士も、みんなちがって、みんないいよね」という、金子みすゞさんの境地に今の私は達しているのでした。 さて。 これが、相対主義です。 つまり、AとBの2つ(あるいはそれ以上)の意見がある時に、どちらかひとつだけを絶対的な善とするのではなく、「どちらにも正しさはある」と考える姿勢。「どちらが正しいのか?」ではなく、「正しさは立場によって異なる」、そして最後には「どっちもいいよね」「全部ありだよね」に到達するのが相対主義の考え方です。