SF的設定を通して現代社会の見えない偏見や差別を描く社会派エンタメ「隣人X‐疑惑の彼女‐」
もしも人間の姿をそっくりにコピーできる宇宙人が、日常生活で出会う人々の中に紛れ込んで暮らしているとしたら……。そんなSFやホラーにもなりそうな設定で、“見えない偏見や差別”を描いた異色のヒューマンミステリー「隣人X‐疑惑の彼女‐」。SF的設定ながらも、あくまで描くのは等身大の人間ドラマで、ラブロマンスを絡めつつ人間の闇を焙り出す深いテーマに迫った良質な社会派エンタメとなっている。6月5日にBlu-rayとDVDがリリースされた本作の魅力とBlu-ray特別版に収録される特典映像についてご紹介したい。
パリ在住の日本人作家の小説現代長編新人賞受賞作を映画化
原作は、パリ在住の作家・パリュスあや子が、第14回小説現代長編新人賞を受賞した『隣人X』。山口文子名義で、歌集『その言葉は減価償却されました』を発表し、映画「ずぶ濡れて犬ころ」(19)などの脚本も担当している作者が、フランスに移住して感じた経験を踏まえて初めて執筆した小説だった。なお、『漫画ゴラクスペシャル』で連載中の同名のサイコスリラー漫画は、全くの別作品となる。 物語の舞台は、紛争のために故郷の惑星を追われた“惑星難民X”が地球に逃れてきている現代世界。Xは、地球の人間に危害を加えることはなく、人間の姿をそっくりコピーすることができる。各国がその対処に苦慮する中、いち早く受け入れを発表したアメリカに追随するように、日本も“惑星難民受け入れ法案”を可決。世界的にXの受け入れが認められつつあったが、既に日常に紛れ込んだXがどこで暮らしているのか、Xは誰なのか、彼らの目的は何なのか、その実態はまだわからないことが多かった。社会には言葉にならない不安や動揺が広がり、誰もが隣にいるかもしれないXを見つけ出そうと躍起になっていた。 そんな中、週刊誌の契約記者の笹憲太郎(林遣都)は、X疑惑のかかった柏木良子(上野樹里)の追跡を始める。笹は、スクープのために自身の正体を隠しながら徐々に良子へ近づいていく。二人は少しずつ距離を縮め、やがて笹の中に本当の恋心が芽生えるが、良子がXかもしれないという疑いを拭いきれない。果たして良子はXなのか。笹は、良子への想いと本音を打ち明けられない罪悪感に苦しむが、記者としての大きな実績がない彼はこのスクープをものにできなければ契約を切られる恐れもあり、現在の生活にも困窮していた。追い詰められた笹が最後に見つけた真実とは。嘘と謎だらけの二人の関係は予想外の結末へと向かっていく……。