SF的設定を通して現代社会の見えない偏見や差別を描く社会派エンタメ「隣人X‐疑惑の彼女‐」
熊澤監督の丁寧な演出で上野や林の芝居が変化していく様子が収められた貴重な映像特典
6月5日にリリースされたBlu-ray特別版には、映像特典として、メイキング映像、舞台挨拶映像、音声特典として上野樹里と熊澤尚人監督によるオーディオコメンタリーを収録。初回限定生産特典として特製スリーブケース仕様にもなっている。 約65分のメイキング映像では、撮影現場の様子とメインキャストの現場でのコメントを見ることができる。撮影初日と二日目は、原作の版元でもある講談社内の編集部オフィスを借り、林が演じる笹の雑誌編集部のシーンを全カット撮り切ったそう。つまりクランクイン直後に後半の焦燥した笹のシーンも撮影されており、林がすさまじい集中力でその変化を最初から自身を追い込んで演じている様子が見られる。特に笹がバカリズムの演じる副編集長に詰め寄るシーンの芝居は、撮影前のリハーサル「段取り」から、本番撮影に至るまでの林と熊澤監督のやりとりがじっくり収められており、監督がどのように俳優に演出し、俳優がどうそれに応えていくかがわかる。話し合いながら芝居が少しずつ変化し、笹の必死さをより引き出していく過程は、とても興味深い。三日目以降は滋賀県の彦根市や大津市でロケ撮影されており、熊澤監督がキャスト陣と丁寧なやりとりを重ねた上で、演者の意見も上手く引き出しながら撮影を進めている様子がわかる。 上野と熊澤監督のオーディオコメンタリーも、貴重な撮影秘話が満載。上野は、良子役をどういう気持ちで演じていたかや林の芝居の上手さなどについて、熊澤監督は各シーンの演出意図やラスト近くのスクラッチくじに写っている猫が自身の飼っている愛猫であるという初解禁の小ネタなどまで、様々な撮影秘話を語り合っている。前述の通り、バカリズムらが出演する編集社内のシーンは2日間、ファン・ペイチャのシーンは4日間ですべて撮り切ったそうで、かなり短期間で撮影されたこともわかる。また、良子と笹が夜の水辺を歩いているシーンは、林の地元でもある滋賀県で撮影されており、林は子どもの頃に嫌なことがあると、撮影場所となった水面をみながらたそがれていたことがあると語っていたり、様々な裏話も二人が披露している。 公開2日目に行われた舞台挨拶映像では、上野が公開初日に旦那さん(和田唱)と劇場に見に行き、泣いたことや、何度か映画館に通うと思うと語り、本作への思い入れの深さを熱く語っている姿や、新人に近い時期に組んだ林が約15年を経て再び熊澤監督と組むことができた感慨を語る姿などが収められており、充実した特典となっている。 文=天本伸一郎 制作=キネマ旬報社
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