ザ・作州人 医学博士から人気のワイン醸造家へ ハマダヴィンヤード代表取締役 濱田洋文さん
人生の分岐点は2013年。56歳の春に大きな決断を下したが、当然ながらためらいもあった。
「研究者として、もう少しやり遂げようという思いもありました。しかし、30年以上掛けてここまでか…と夢破れた気持ちもあった。もう1回戦やろうと思えば85歳を超えるな」と自問自答の日々が続いた。
しかし、最終的には「中途半端な気持ちで教授職にとどまるのは醜い。保身に走るのは学生たちのお手本にならないし、老害でしかない。教え子に引き継いでもらって大学をきれいに辞めよう」と退官を決意した。そこには明るい性格の奥さんのサポートもあったに違いない。
もっとも、当初はほぼ白紙状態でワインづくりをするとは決めていなかったそうだ。ただ99年から2011年まで札幌医大に勤務。北海道とのつながりができたこともあり、野菜づくりを思い立ち、さっぽろ農学校へ。そこから旧産炭地の三笠市が新規就農者を支援していたこともあり、ワインづくりを学び、いまに至る。
「医学界で培った人脈が全く通じない立場で、伸び伸びした仕事がしたかったのと、ハレの日に飲まれるお酒をつくり、みんなに楽しんでもらおうと思ったんです」
桃栗三年、柿八年ではないが、ワイン用のブドウ栽培を始めて3年後の19年秋に初リリースすると「ほんのり優しく心地いい酸味を感じる」として即完売。その後も「医学博士のつくったワイン」として人気を博している。
しかし、濱田さんの凄いところはこれだけではない。何と、ここに来て自身が発明したユニークな方法で得られた抗体を用いた乳がんや肺がん治療の新薬が米国食品医薬局(FDA)への承認申請が受理され、来年早々に最終局面を迎える。さらにもうひとつ、この方法で得られた別の抗体を使っての卵巣がん治療臨床試験も進行中とのことだ。
「ひとつは認可されそうなんですが、実はわたしのところにはあまり情報が来ないんですよ。でも、ブドウの成長が慰めになってくれています。風が流れる畑で第2の人生を楽しんでいますよ」