『新宿野戦病院』橋本愛演じる南舞が気になって仕方ない 主演・仲野太賀との“因縁”も
『新宿野戦病院』で橋本愛が実践する“流す演技”
『新宿野戦病院』における橋本のポジションは、先述しているようにヒロインにあたる。舞は高峰享に言い寄られては、それをうまい具合にサラリとかわす。仲野のテンション高めな演技に真っ向から対峙することも可能だが、橋本は軽く受け止めたうえで流す演技を実践している。これがもし仲野のエネルギーを跳ね返すような演技であったり、完全無視するような演技であった場合、舞と享の関係はもちろんのこと、作品全体の印象もガラリと変わるに違いない。 これはただでさえ騒がしい作品なのだ。せめてそのリーダー格(=主役)が発するエネルギーくらいは誰かが適切に処理しなければならないだろう。でなければ作品の印象は散漫なものとなり、“騒がしさ”はネガティブなものになってしまう。橋本の演技に求められているのは他の者たちのようなコミカルさではなく、作品を地に足のついたものとするための力。思い切って“平凡”だと記したこの舞こそが、本作においてはもっとも“異質”な存在なのである。このポジションを務められる俳優が、他にどれくらいいるだろうか。少なくとも、周囲の演技者と対等に渡り合える者でなければならない。 そんな橋本といえば、2024年の2月に公開された主演作『熱のあとに』でも仲野と共演している。しかも同作は、愛憎渦巻く新宿から物語がはじまる作品だ。彼女が演じた小泉沙苗はホストを刺し殺そうとした過去があり、奇遇にも、南舞が出会うべき人物だった。やがて沙苗は仲野が演じる健太と結婚し、自身の中にいつまでも「熱」を持ったまま、愛というものの本質に迫っていく。これは何の因縁なのだろうか……。やっぱり、“南舞=橋本愛”の存在が、どうにも気になって仕方ないのである。舞の秘めているものが明らかになるときーーそれは橋本の役割が変化する瞬間であり、『新宿野戦病院』はいまとは異なる表情を見せるだろう。
折田侑駿