奈緒&松田龍平が夜の街に映える 『東京サラダボウル』が描く、現代日本の国際化の裏側
中国人観光客・キャンディーはなぜ日本で行方をくらませたのか
キャンディーは有木野が可能性の一つとして挙げていたような、旅行を装い、偽造パスポートで入国した犯罪者ではなかった。シェンが留守中に一人で新宿のアニメショップへ行き、そこで同じ中国人のヘンリー(小野翔平)に声をかけられたキャンディー。言葉が通じない異国で少なからず、不安な気持ちでいた彼女は母国語を聞いてホッとしたのだろう。 つい心を許してしまい、ヘンリーについて行ってしまったキャンディーは大麻を吸わされ、酩酊状態に。そのままホテルに連れ込まれそうになり、隙をついて逃げ出すが、その際に荷物を取り違えてしまった。ヘンリーの荷物には麻薬リキッドが入っており、お金もなくタクシーの無賃乗車で逮捕されていたのだ。 聴取の場には有木野もいた。キャンディーが本名も告げず、黙秘を続けていたのは、中国では麻薬犯罪は死刑になりうる重罪だから。本当のことを言っても、信じてもらえるかわからない。疑いが晴れなかったら、どうなってしまうのか。不安で、恐ろしくて、自分を案じる父親からのメッセージに涙が止まらなくなる普通の女の子だ。私たちも決して無関係ではない。異国の地で同じようなトラブルに巻き込まれる可能性は十分にある。 そんな時、鴻田のような警察官がいたら、どれだけ心強いだろうか。全く知らない自分のために奔走し、最後まで希望を捨てず、危険を感じ取ったら、とことん追及してくれる。熱いけれど、その熱さを持って人に圧をかけたり、恐怖心を与えたりしない。 「言葉の通じないこの状況で40時間、さぞ心細かったでしょう。でも、もう大丈夫だよ」 鴻田の言葉が有木野に翻訳され、慣れ親しんだ母国語でキャンディーを包み込む。警察時代に何かあったのか、悲観的で人を信用していないところがある有木野。だが、自分の感情を入れず、一言一句、正確に訳す彼もフィルターをかけずに外国人と向き合っている。ゲテモノ好きの鴻田と、安定志向の有木野とで、食の好みも性格も正反対だが、案外似たところもあって、良いコンビになるのではないだろうか。夜の街に、妙に映える彼らのバディっぷりも堪能できそうだ。
苫とり子