声帯手術、養母の命日のラストライブ…「いつかは自分もお母さんみたいに」川嶋あいの音楽の原点はMDウォークマン
卒業白書2024#1《後編》
2003年に『明日への扉』(I WISH)でデビューしたシンガーソングライター・川嶋あいさんは、自身の養親の命日である“8月20日”に毎年ライブを開催していた。しかし、2022年に手術した声帯の不調が続き、昨年8月20日のライブを最後にすることを決めた。養親である母の死、声帯の手術、さらには大切にしていた“恒例行事”からの卒業を決断するなど、デビュー20周年目に目まぐるしい変化が起きた川嶋さんの今の想いを聞く。 【写真】かつて「路上の天使」と言われてストリートライブ1000回行ったSSWの川嶋あい
親と暮らせない子どもの多さを危惧
――川嶋さんは生まれてすぐに乳児院に預けられ、早くに産みの母親を亡くした後、養親に引き取られて育てられたとのことです。今日まで多くの人に感動を与える音楽活動を続けていますが、川嶋さんを音楽の道に導いた育てのお母さんもとても喜んでいると思います。 川嶋(以下同)そうだとうれしいです。育ててくれたお母さんは私の人生の扉を切り拓いてくれた存在です。 お母さんと出会えていなければ、音楽をやっていたのかさえわかりません。仮に元気に生きてこれたとしても、音楽をやっていない自分自身を想像すると怖くなります。本当に感謝しかありません。 ――本当に感謝されているからこそ、“昨年で8月20日のライブをラストにする”という決断をするにはかなりの覚悟が必要だったのでは? そうですね。何か重要な決断をするとき、いつもは自分自身の中で答えを導き出します。ただ、「8月20日のライブを今後続けようか?」ということに関しては、悩みに悩んで「最後にしていいのかな」と心の中でお母さんと会話して、2023年を一つの区切りにすることを決めました。 ――川嶋さんは「こども家庭庁」のインタビューをはじめ、里親や養子縁組に関する取材も受けていますが、現在の状況についてはどのように感じていますか? 今現在、親と暮らせない子どもは約4万5000人もいると言われています。「なぜ日本では児童養護施設や自立支援ホームで過ごすしかない子どもがこんなに多いの?」ということに疑問を覚えて仕方ありません。 ――子どもにやさしい環境、社会とは言えないですね。 私は養親に引き取られ、その親にも恵まれました。ただ、無事に養親に引き取られても、親とのコミュニケーションが上手くとれずに悩んでいる子どももいます。 ――統計上の数字にはあらわれないだけで、親との関係で苦しんでいる子どもはたくさんいます。 子どもの生育環境は周囲からではわからない部分も多く、そうした可能性はあると思います。音楽活動はもちろんですが、子どもが安心して生活できるような社会をつくるための発信はこれからも積極的に続けていきたいです。