アルコール依存症のリアル描く劇、大阪の小劇場で公演…患者や医療従事者に1年以上取材重ねる
患者、家族、ケースワーカーそれぞれの立場からアルコール依存症を描くオムニバス劇「あなたのとなりに」が16~20日、大阪市中央区の小劇場「ウイングフィールド」で開かれる。劇場代表の福本年雄さん(71)はアルコール依存症と診断された当事者で、約20年前から劇作家や患者らとともに依存症や心の病の実態を演劇で発信してきた。生きづらさを抱える人への理解を求め、6年ぶりに新作を披露する。(池内亜希)
福本さんは30歳代前半の頃、父親が所有していたビルの運営などでストレスを抱え、「あくまで気分転換。寝酒程度」で飲み始めた。1992年、演劇をしていた知人らの誘いでビル内にウイングフィールドを開設すると、酒の付き合いが増えた。家族関係に悩み、酒量はさらに多くなった。
「足がしびれるなど体のあちこちに不調が生じ、酒を飲むのがすごくしんどい。でも飲まないと何もできない。もう何のために飲んでいるのかわからなかった」。2001年頃、アルコール依存症と診断された。
通院先で出会ったのが、精神保健福祉士の三好弘之さん(67)だった。既存の自助グループになじめずにいた福本さんに「いっそのこと会を作ろう」と声をかけ、患者や家族らが集う団体「こころネットKANSAI」を設立。三好さんの提案で福本さんが旧知の劇作家に呼びかけ、04年10月、摂食障害をテーマにした舞台が実現した。13、19年にはアルコール依存症やうつ病などを取り上げた。
劇作家らは制作にあたり、こころネットから患者や家族、医療・福祉従事者を紹介してもらい、直接話を聞く。今回も、中堅劇作家が1年以上にわたり取材を重ねた。
昨年12月下旬、通し稽古が行われた。オムニバスの1作「SALT」は、関係機関と連携して援助にあたるケースワーカーが軸の会話劇。再飲酒してしまった患者の母親が、苦しい胸の内を明かしていく。最初の台本では、ケースワーカーも積極的に発言していた。しかし、ケースワーカーから「こういう声掛けはしない」と意見が出たため、母親の言葉を引き出す形に書き換えた。