米国で孤独まん延、たばこ1日15本分の危険 人員削減・SNSが影響
米国人の1割「親しい友人がいない」
「やはりコロナ禍の影響が大きかった。人々は距離感の取り方や他人との付き合い方を忘れてしまった」。スミスさんが参加した朝方ダンスイベント「DAYBREAKER(デイブレーカー)」を主催するラーダ・アグラワル氏はこう指摘する。 アグラワル氏はニューヨークで暮らしていた13年にデイブレーカーを始めた。「孤独に陥りやすい都市でも帰属意識を持てるコミュニティーをつくりたい」と考えたのがきっかけで、いわば孤独・孤立問題の先駆者だ。これまでに世界28都市で50万人を超す参加者らと交流を重ねてきたが、20年のコロナ禍以降の4年間は明らかな変化を感じたという。 「昔からの知り合いはいても、違うグループと交わったり、新しい友人をつくったりするのが難しくなった」と、アグラワル氏は言う。米NPOピュー・リサーチ・センターの23年の調査によれば、米国人の1割近くは「親しい友人が1人もいない」としている。 23年ごろから顕著になった企業の人員削減も一因だ。米アカデミー賞を受賞した映画「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」のダニエル・クワン監督は3月の講演で、「誰もが使い捨てにされる状況にある」との見方を示した。頻繁な解雇によって不安が広がり、「従業員と雇用者の関係、友情さえも長続きしなくなった。かつてなく孤独を感じやすくなっている」(クワン氏)。 もちろん、テクノロジーの副作用もある。デートアプリ「Hinge(ヒンジ)」のジャスティン・マクラウド最高経営責任者(CEO)は「つながりをうたっていたSNSがいつの間にかソーシャルメディアと呼ばれるようになったのが象徴的だ」と言う。広告効果を高めるために中毒性のあるサービスを各社がつくり込んだ結果、人々が友人らとリアルで過ごす時間は減った。 マーシー医務総監の勧告は対策として、図書館や公園といった公共インフラへの投資を通じた地域社会でのつながりの強化や、医療・保健機関による支援の拡充を挙げる。日本の孤独・孤立対策推進法は自治体に対し、問題に取り組むための地域協議会の設置を促している。ただ、いずれも即効性を求めるものではない。孤独のまん延に個人はどう向き合えばいいのか。 ●勇気を出して誘ってみる アグラワル氏は「孤独を感じている自分を認めることから始めるべきだ」と話す。同氏の母親は日本人で、本人もたびたび日本を訪れている。そこで感じたのが、日本人は米国人などと比べて「『大丈夫だから』と無理をしてしまう人が多い」ということ。寂しさを認めることが「最初の一歩」だと指摘する。 その上で、社会とつながるために何ができるかを模索する。自身の帰属意識について改めて考えたり、見直したりするのも一案だという。「健康のために食事内容を変えたり、運動したりする。孤独についても同じように捉えればいい」と、アグラワル氏は言う。 具体的にできる行動として「誰かから声がかかるのを待たない」ことを勧める。映画鑑賞や公園を散歩する会といった催しを企画し、「勇気を出して自ら誘ってみる」のだという。重要なのは、参加者数と成功を結びつけて一喜一憂しないこと。「誰かが来てくれてすてきな時間を過ごせたら、それだけで素晴らしい」(アグラワル氏)
佐藤 浩実