アーセナルの3発快勝は納得。サカに自由を与える緻密な仕組み。エース“解放”のカギを握った男とは?【分析コラム】
ティンバーが果たした大きな役割
彼は保持時、サリバの脇にピタッとつく。マガリャインス-サリバ間と、サリバ-ティンバー間を比べると、その距離の近さは一目瞭然だ。ティンバーはワイドに広がらず、サリバの脇に立つことが多かった。 その狙いはサカの解放である。ティンバーの脇(真横と右斜め前方)にスペースが生まれ、ここにウーデゴールの動きが組み合わさることで、サカに1対1の局面が与えられる仕組みだ。 具体的な例として、22分のシーンが分かりやすいだろう。ウーデゴールが中央でボールを受けた場面だ。 この時、ティンバーにはカラム・ハドソン=オドイが、ウーデゴールにはニコラス・ドミンゲスが監視についていた。が、ノルウェー代表MFにボールが入った途端、一気にアーセナル優位になる。 なぜなら、この瞬間ハドソン=オドイ、ドミンゲス、ライアン・イェイツらフォレストの中盤の選手たちはウーデゴールに釘付けになっていたからだ。 守備側の狙いとしては、サカに対して左SBアレックス・モレーノとドミンゲスの2選手を使ってダブルチームで対応したかったはず。しかし、ウーデゴール、ティンバーの動きによってその目論見は外れることになる。 ウーデゴールはティンバーにボールを落とし、ティンバーはプレッシャーをほとんど受けることなく、右足でサカにボールを届けることに成功した。モレノはサカと完全な1対1での対峙を強いられ、背番号7を止められず。サカは深い位置までボールを持ち運び、ウーデゴールの決定機を創出している。 なぜこのティンバーの立ち位置が、大きな効果を発揮したと言えるのだろうか。
ティンバーはSBの域を超えていた
もしウーデゴールが中央のライン間でボールを引き出した時、ティンバーがワイドに張っていたらこの状況はどうなっていただろうか。 ハドソン=オドイが現実よりもややサイドに開いた位置に立つことになり、ティンバー-サカ間のパスコースを妨害しにきたはずだ。ティンバーがサリバの脇、すなわちサカに対して角度をつけた立ち位置を取ることがミソだったと言える。 この試合でティンバーはパス成功率94%(44/47)を記録(データサイト『SofaScore』参照)。絶妙な立ち位置、インナーラップ、そしてオーバーラップでパスコースとスペースを作り、サカとウーデゴールを懸命にサポートした。大きなミスもなく、攻守両局面でチームに与える影響はサイドバックの域を超えていると言っても過言ではない。 結果的に、この形がゴールに直接結びつくことは無かったが、ウーデゴールとティンバーによるサカの解放はアーセナルが早い時間帯から主導権を掴むことに貢献している。トーマス・パーティのミドルシュートもあって余裕が生まれたホームチームは、ウーデゴールに代わってイーサン・ヌワネリを投入。将来を期待される神童の3点目で勝利を決定づけている。 まさに、アーセナルにとって新章開幕を告げる希望に満ち溢れたゲームになった。控え組の選手たちが踏ん張り、チームの将来を担う若手選手がリーグ戦初ゴール。加えて、デクラン・ライスやカイ・ハヴァーツといった主力組を休養させることもできた。 積み上げた勝ち点は「3」。当然ながら他の試合と変わらない。それでも、遠ざかりつつあったリーグ優勝に向けて前進に成功したことが、勝ち点以上に何よりもポジティブな影響をもたらすはずだ。 選手の負傷離脱等でベストメンバーが揃わず苦しい時間が続いていたが、ようやく悪夢を抜け出した感がある。第12節ノッティンガム・フォレスト戦がリーグ優勝へのターニングポイントだった…なんてシーズン終了後に笑って振り返りたいものだ。 (文:竹内快)
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