全身全霊で働かない、三宅香帆が提唱する「半身で働く」方法
毎日仕事で疲れて趣味の時間がもてない、時間があってもスマホを見て一日が終わってしまう、そんな現代社会の課題を1994年生まれの三宅香帆が紐解き、これから必要な働き方を提示する。 「気づけば最近まったく本を読んでいない」。そんなビジネスパーソンの共感を得て、三宅香帆著『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』(集英社新書)が4月中旬の発売以降、累計発行部数16万部突破のベストセラーとなっている。新書は50代以上の読者が多い傾向にあるが、本作は20~30代の購入者の割合が多く、幅広い層に読まれている。 多くの人が手に取ったということは「趣味に費やす時間や気力がない」と自覚し、今の働き方に疑問をもっている人が多いことの表れでもあるだろう。三宅は本作のなかで「全身全霊」で働く現代社会から、仕事に半分、それ以外に半分の時間を使う「半身」で働く社会に変わるべきなのではないかと提示している。これから必要な「半身社会」の価値観について紐解いていく。 ──本著の最終章では「半身こそ理想だ」と提言されていましたが、どんな働き方なのでしょうか。 三宅香帆 (以下、三宅):「半身社会」の反対は、全身全霊で働くことがスタンダードとされる「全身社会」です。「週5勤務で専業、男性中心の会社で全身全霊で働く」ことが正社員の必須項目になるのが全身労働社会だとすると、たとえば「週4勤務で兼業OK、性別も年齢もフリーの働き方が可能になる」のが半身労働社会です。この違いは、家庭や趣味など仕事以外のことを楽しむ余裕をもちやすいかどうかにあります。 本書の主題でもある「本が読めない」状況とは、仕事以外のことに興味をもつ余裕がないということ。本には、自分が予想していなかった展開や知識などのノイズが含まれています。全身全霊で働いていると、自分が求めている情報以外のノイズを受け入れられなくなってしまうのです。 ──全身全霊の働き方に疑問をもつきっかけは。 三宅:正社員でいるためには「週5勤務、1日8時間+残業あり、フルタイムで出社」が普通とされていますが、実際働いてみると想像していたより大変でした。私自身も社会人1年目のときにまともに本を読むことが難しくなっていたことに気がつきました。そして、私は読書がしたくて3年目で会社を退職しましたが、よく考えると全身全霊で働き、本が読めなくなるまで働くのが当たり前とされる世の中がおかしいのではないかとも思いました。 私だけではなく、「家族や持病のために時間の融通が利く働き方をしたいから正社員を諦める」。そんな声に出会うことも多く、そもそも日本企業の働く条件が時代にあってないんじゃないかと思うようになりました。