女性が牛丼屋に入りにくい問題どうする? 「吉野家」15年ぶり大規模出店 女性を狙った2つの店舗スタイルとは
「らしくない」C&C店舗も大幅に拡大へ
吉野家は他にもC&C店舗の出店を強化する方針を発表している。 C&Cとは「クッキング&コンフォート」の略。従来店のようにU字型のカウンター席はなく、C&C店舗はファミレスやカフェのようにテーブル席を多く設置する。椅子も簡素な丸椅子ではなく、背もたれがついたものだ。カウンター席には電源もあり、ゆっくり休めそうな雰囲気である。無機質な従来店の内装とは対照的に、C&C店舗は木目やレンガ調の壁紙、フェイクグリーンを設置するなど内装にも凝っている。 利用客は入口付近のレジで会計を済ませ、呼ばれたら取りに行くセルフ式をとる。松屋のように券売機を置かないのは、対面を重視する吉野家らしい施策だ。C&C店舗限定のメニューもある。「牛丼ON野菜」(並盛677円)や「ON野菜」(110円)のほか、アイスクリームやドリンクバーまであるのが特徴的だ。以前はケーキも提供していた。 牛丼御三家の中でもトッピングや特徴的なメニューが少なく、牛丼一辺倒だった吉野家のメニューをかえりみると、C&C店は女性客を取り込もうとする姿勢がうかがえる。 C&C店は従来店よりテークアウトの売り上げが伸びた他、2割だった女性客比率が3割に増えた実績もあったといい、期待は大きい。2016年から出店し、2019年時点では4店舗しかなかったが、新規出店および従来店の改装を進めた。直近2年で店舗数を著しく増やし、2024年2月期末時点では412店舗まで拡大している。2025年2月期末には532店舗を目標とする。
本業に集中し、女性客を取り込む
テークアウト専門店、C&C店と2つの新業態店を強化する吉野家だが、背景には女性客を取り込みたい狙いがある。従来の狭いカウンター式店舗には抵抗がある女性も多く、新業態店でそれを打ち消す形だ。 各社が実施する牛丼屋のアンケートでは、女性からの評価が高いのはすき家の傾向がある。すき家は豊富なトッピングメニューや子ども向けメニューで幅広い客層を取り込んできた。一方の吉野家は女性客比率が低く、新規開拓を模索した結果が新たな戦略に反映されている。 吉野家ホールディングス全体に目を向ければ、2020年に「ステーキのどん」や「フォルクス」などのアークミール事業を手放し、翌2021年には持ち帰り寿司店の「京樽」事業をスシローグローバルホールディングス(現:FOOD & LIFE COMPANIES)へと売却した。国内のはなまる事業も芳しくなく、すき家のゼンショーのように多角化を進めたが、うまくいっていない模様だ。他事業がうまくいかない状況であらためて本業を伸ばそうとしたのだろう。 女性からは「牛丼屋には入りにくい」という意見も聞かれ、新業態店のポテンシャルはありそうだ。テークアウト店の半分が女性客であることからも、牛丼自体が避けられているわけではないことは明確であり、女性客を取り込んで再成長できるのか、吉野家の今後に注目したい。
著者プロフィール:山口伸
経済・テクノロジー・不動産分野のライター。企業分析や都市開発の記事を執筆する。取得した資格は簿記、ファイナンシャルプランナー。趣味は経済関係の本や決算書を読むこと。
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