V字回復サッカー人生…JリーグMVP家長はなぜ本田圭佑のサプライズに感激したのか
いつの間にか追い越されていた本田の背中が、はるか先に見える状況になっていた2010年夏。28歳で迎えるワールドカップ・ブラジル大会へ向けた思いを家長に聞いた。 「当然、誰もが狙う舞台なので」と前を見すえた家長から、こんな言葉が返ってきた。 「自分のストロングポイントを磨いていかないと、ワールドカップは見えてこない。これだ、という武器がないと、ああいう舞台では活躍できないので。自分の武器ですか? 模索中です。とにかく、いまは力をつけていきたい」 家長には高い決定力とフィジカルの強さを生かしたキープ力、そしてサッカー人生を貪欲に成り上がっていかんと望むハングリー精神があった。セレッソでの日々に満足せず、ラ・リーガ1部のマジョルカ、韓国の蔚山現代、降格危機にあった古巣ガンバ、2部に降格したマジョルカ、そして大宮アルディージャと渡り歩いたその後のサッカー人生は、自分だけの武器を探す目的も込められていたはずだ。 そして、2016シーズンのアルディージャで、J1で初めて2桁ゴールをマークしても終わりが見えなかった挑戦の旅路は、延べ9チーム目となったフロンターレでひとつの目的地へとたどり着いた。 1年目の昨シーズンこそけがで出遅れたが、夏場を境に必要不可欠な選手へと昇華。基本ポジションの中盤の右サイドだけでなく、前線のあらゆるエリアに神出鬼没に現れてはボールに絡み、フロンターレの攻撃に違いを生み続けた存在感は今シーズンになってさらにスケールアップした。 記者投票で選出されるプロ野球のMVPとは異なり、J1のそれは18クラブの監督、シーズンで17試合以上に出場した全選手による互選が基になる。ポジションごとに投票数の多い計30人が優秀選手賞に選出されたなかで、家長は最多となる177票を獲得。それだけ味方には安心感を、相手チームには脅威を与えた証である。 ベストイレブンとMVPは、優秀選手賞の30人から村井満チェアマン、原博実副理事長、J1クラブの実行委員(代表取締役)らで構成される選考委員会が選出する。個人タイトルに無縁だった家長は、ベストイレブンに自身を含めた7人が選出されたフロンターレへ「入ってよかった」と思いの丈を明かした。 「全員の志が高く、選手一人ひとりの向上心が高いチーム。自分が想像している以上に多くの刺激をもらえているし、みんなのおかげで僕自身も人としても選手としても成長できた」 札幌ドームのピッチで17分間だけ共演した、ザックジャパン時代の2011年8月の韓国代表戦を最後に、2人の直接的な接点はない。それでも「ライバル」と書いて「親友」と読む、家長と本田だけが国境や時差を超えて散らしてきた聖なる火花は、かつての天才児の覚醒を促す触媒となった。 「中学時代はいつも一緒にいて、たまたま生年月日も一緒で。本当に運命を感じる選手だと思います」 ビデオメッセージを寄せた本田への感想を問われた家長は、照れくさそうに感謝の思いを明かした。更新が途絶えて久しいブログのタイトル『拝啓 自分不器用デスカラ。』を地で行くような家長の武骨な挑戦は、史上初めて3年連続で同一チームから輩出されたMVPをマイルストーンとして、さらなるタイトルの上積みを目指す来シーズン以降も続いていく。 (文責・藤江直人/スポーツライター)