「仕事を休みたいので診断書をください」「朝、会社に行くのがつらい」で休めてしまう…《うつ病休職者》の大多数は深刻ではなかった、という「衝撃すぎる実態」
ストレスチェック義務化の弊害について記した前編記事『「くだらない質問に答えることが苦痛」「時間のムダ」と批判殺到…医師が指摘「ストレスチェック義務化は効果薄」』に続き、近年急増し続ける「うつ病休職」の実態について紹介する。 【マンガ】追いつめられた女性が「メンズエステ」の世界で味わった「壮絶体験」
緩くなった「うつ病」の診断基準
ストレスチェックによって、会社側は職場環境が高ストレスの原因としてしまうと責任を負わなければいけなくなるため、従業員個人のメンタルヘルスの問題にすり替える傾向がある、ということは前編記事で詳述した。 しかし、実際に診察すると、深刻なメンタルヘルスを抱える患者はそれほど多くないという。著書に『うつ病休職』(新潮新書)があり、沖縄県豊見城市のなかまクリニック理事長で精神科医の中嶋聡氏が解説する。 「ストレスチェックで高ストレス判定が出たことで来院する患者は、年々増えています。ただし、ストレスチェックで初めて見つかるようなケースで治療が必要なうつ病というのはまれで、抑うつ反応(適応障害)とみられる症状がほとんど。 うつ病は身体的根拠が強く推定される『疾患』のこと。抑うつ反応(適応障害)は、心理的・環境的要因から了解可能である『体験反応』のことです。どちらに該当するのか難しい症例もありますが、以前は厳密に区別することが通例でした。 しかし、DSMという診断基準が導入されたことで、うつ病の定義が拡大しました。1980年代までは抑うつ反応だったものが、うつ病に含まれることになったのです。『元気がない』『やる気が出ない』『朝、会社に行くのがつらい』といった設問がいくつか当てはまれば、大体うつ病と診断されます」(以下の「」は中嶋氏)
絶大な効力がある「診断書」
厚生労働省『患者調査』によると、2020年時点の精神科患者(入院+通院)は614.8万人。1999年時点では、204.1万人だったため、約20年間で3倍になっている。 その背景には簡単にうつ病と診断される事例が増えていることがある。また、上司に言われるわけでもなく、仕事を休む目的のために診断書をもらいに来る人も珍しくないという。 「意外に思われるかもしれませんが、『うつ気味で仕事を休みたいので、診断書をもらいにきました』とはっきり言う人は、決して少なくありません。昔とは違い、今の精神科医の多くは、抑うつ反応とうつ病の区別を厳密にしていないため、一律にうつ病と判断し、診断書を書く人が大多数なので、簡単にもらえます。 私の場合は、診察した結果がうつ病ではなく、抑うつ反応または大した症状ではないとすれば、ありのままに『休職は必要ない』と書きます。そう説明しても、『どうしても診断書を書いてほしい』と言う人には、休職が必要と書くのではなく、『しばらくの間、通院治療を行う予定』などと、現時点での症状を説明します。『休職が必要と書いてもらえないなら、書いてもらっても仕方ない』と断る人もいます」 それほど診断書には絶大な効力があるため、中には即日で診断書を出すことを売り文句にしている精神科クリニックさえあるようだ。