原点は阪神大震災 消えゆく「メロディペット」モチーフに作品制作
遊園地やデパートの屋上で、愉快なメロディーとともに歩むパンダやクマといった乗り物。この「メロディペット」と呼ばれる動物型遊具をモチーフに、国内外の遊園地を取材して作品にする神戸市のアーティスト・竹内みかさん。昭和から平成にかけて子どもたちを楽しませた地方の遊園地は閉園が相次ぎ、メロディペットも姿を消しつつある。どんな気持ちで竹内さんは“彼ら”を追っているのだろうか――。【前本麻有】 【写真まとめ】クマ、パンダ…竹内さんの作品 可愛いけど、哀愁が漂う。個展のタイトルはいつも「センチメンタルパーク」だ。 バッテリーが内蔵された乗り物の本体に、ぬいぐるみのような毛並みの布地をまとうメロディペット。竹内さんはこの外側の布地を「ガワ」と呼ぶ。主に屋外で使用され太陽の光を浴び、子どもたちを背に乗せては、やがて色あせ、黒ずんでいく。舌がだらんとくたびれてしまったクマなどの“表情”を絵画にしたり「ガワ」を集めて展示したりするインスタレーション作品を手がける。 もともとはグラフィックデザイナー。仕事に慣れてきた2010年ごろ、趣味として絵画教室に通った。絵本に出てきそうな動物を描いていると、講師のイラストレーター・安斎肇さんに「全然だめ。愛人はやめなさい、本妻になりなさい」と強烈なダメ出しをされた。どこかで見たことがあるような絵ではなく自分だけの作風を、ということだ。「その夜、涙で枕をぬらしたことを今でも覚えています」と笑って振り返る。 心機一転、カメラを手にモチーフを探しに街へ出た。すると神戸ハーバーランド・モザイクガーデンの遊園地(現在閉園)の片隅で、ひっそりたたずむメロディペットの姿に目を奪われた。「愛されて、くたびれて。消費社会や豊かさとは何かと考えさせられる」と語る。 「ちょっと古いものに心がひかれるんです」。その原点は1995年の阪神大震災だ。小学生だった当時、神戸市兵庫区のマンションに住んでいた。普段は窓からビルしか見えない。でもあの日、見えるはずのない海が目に飛び込んできた。倒壊したビル、立ち上る煙。いつもお菓子をくれて優しかった、たばこ屋のおばあちゃんが毛布にくるまれて運ばれていった。「一瞬にして失われる風景やモノ、そして命。衝撃的でした。当たり前の日常が消えてしまうことを知りました」 巨大テーマパークが栄える一方、娯楽が多様化し、地方の遊園地は老朽化や安全面の課題もあって閉園が相次いだ。震災で失った日常を、時代の流れで消えゆくメロディペットに重ね合わせる。「仏教でいう『無常』のような感覚。今あるものを大切にしようと、気づいてもらえたらうれしい」と作品に思いを託す。 これまでに取材で訪れた遊園地は北海道から九州、さらには台湾までおよそ80カ所。姿を消してしまう前に、巡ってみたい場所がいっぱいだ。 ◇たけうち・みか 神戸市出身、在住。大阪芸術大学短期大学部デザイン美術学科卒。広告代理店勤務のグラフィックデザイナーを経て、2010年から制作を始め「六甲ミーツ・アート芸術散歩2020」オーディエンス大賞グランプリなど受賞。 竹内さんのホームページは作品のほか国内外の遊園地「これまでの取材場所」も掲載。「ここに記載がない場所でのメロディペット目撃情報をぜひお寄せください」と呼びかけている。