『妖怪いいね!いいね!』『プラモ怪』…日本独自の妖怪×アート「妖怪美術館」のポップすぎる妖怪たち
現代も妖怪を生み続ける人間
古の日本では、人間の力を超えた神秘的な存在だった自然は「神様」だった。地震や台風、山火事や洪水など、ありとあらゆる天変地異は見えない大きな力によって引き起こされるのだと昔の人々は考えていた。 【現代妖怪】自己肯定感をめっちゃあげてくれる『妖怪いいね!いいね!』。でもとりつかれると… 仏画の影響で「怪しい出来事を起こす見えない存在」として、妖怪の姿かたちが描かれるようになったのは平安時代だ。だが、一転して江戸時代になると妖怪は庶民の「娯楽」となる。人々は図鑑のような本にまとめたり、浮世絵でカラフルな妖怪の絵や怪談を楽しむようになった。その系譜は妖怪を題材としたアニメや漫画作品などが溢れている現代に続いている。一貫して言えるのは、妖怪は人間の思考の産物だということだ。今日も人間は想像力を発揮していろいろな物語を楽しんだり、癒やしを得ようとして妖怪を生み続けている。妖怪の姿は時代を映しながらアップデートされているのだ。 香川県・小豆島にある『妖怪美術館』は世界で唯一、妖怪の現代アートと出会える場所だ。明治から昭和にかけて建てられた呉服屋の蔵、醤油屋の倉庫、印刷工場、庄屋の屋敷を再生して作られた美術館には現代人が創作した1,000体近くの妖怪立体アートが展示されている。 国内外から集められたその作品群は、’13年から7回にわたり開催されているアートコンテスト『妖怪造形大賞』に応募されたオリジナル作品。古来の妖怪文化と現代のポップカルチャーが融合した、斬新な魅力を放っている。作品のテーマは「鬼」、「天狗」、「河童」、「付喪神(つくもがみ)」などの伝統的なモチーフを扱ったものから現代社会が生んだSNSやネットにまつわる妖怪など、多岐にわたる。 11月に世界各地で発売(日本では9月に先行発売)される『POP YOKAI 現代百鬼夜行 Contemporary Character Art of Japan』(仏・Rockbook社刊)は『妖怪美術館』の展示を巡るような形で構成されている。古くからの妖怪や、小豆島の土着の妖怪、妖怪画家・柳生忠平氏の描き下ろし作品などの中から、「現代妖怪」の作品の一部を本文より抜粋して紹介する。解説は日本初の「妖怪博士」である香川雅信氏による。 ◆『妖怪ねすごし』 古い目覚まし時計が、道具が100年経つと変じるという「付喪神(つくもがみ)」にあと1日でなれるというところで壊されてしまい、それを恨みに思って妖怪になったものだという。寝ている人の耳をふさいで目覚まし時計のアラームを聞こえなくしてしまうという実に恐ろしい妖怪だが、それがニワトリの姿をしているというのはなんとも皮肉である。その鳴き声で朝の到来を知らせるニワトリは、夜の住人である妖怪たちにとっては天敵ともいうべき存在だった。だが朝を告げないニワトリは、自らが妖怪になってしまったのである。 ◆『妖怪いいね!いいね!』 自分をひたすら肯定してくれる妖怪。一見、人間にとって好ましい妖怪のように思われる。しかしこの妖怪につかれたら最後、自分の欠点に気づくことができなくなり、人間としての成長が止まってしまう。あまつさえ自分に都合のよい情報だけが耳に入り、考え方がどんどん偏っていった挙げ句、自分と違う意見を持った他人を攻撃するモンスターへと変じていく者もあらわれるだろう。ある意味、現代において最も恐ろしい妖怪かもしれない。 ◆『プラモ怪』 何十年もつくってもらえず放置されたプラモデルの怨念から生まれた妖怪。さんざん使われた挙げ句にうち捨てられた古道具の怨念は「付喪神」という妖怪になるとされたが、使われないモノもまた、その存在の耐えられない軽さ、無意味さから逃れようとして妖怪と化すのである。 『顔ぬすびと』 この妖怪は、とりわけ日本には多く棲息している種族かもしれない。日本では、昔からあからさまな感情を剥き出しにすることは恥ずべきこととされ、その感覚は現在も根強く残っている。見知らぬ人間どうしが寄り集まって暮らしている都市では、ことにその傾向が強く、人々は無表情の仮面をかぶって日々生活している。いや、仮面をかぶっているのではなく、実は知らず知らずのうちにこの怪物に顔を盗まれているのかもしれない。 ◆『がいはんぼし』 ヒトの「美」への追究は、ときに自然に逆らい、人体に苦痛を強いる。ある意味、「美」とはヒトが生み出した怪物のひとつである。ハイヒールの靴によってもたらされる美しさと、それに伴う病である 「外反母趾(がいはんぼし)」は、中国の「纏足(てんそく)」にも似て、「美」なるものが持ついびつさを露呈させる。痛いのに履かずにはいられない──それはもはや「呪い」といえるのではないか。この作品はそうした現代の「呪い」を具現化したものである。 この他にも、SNSや掲示板などで間違った言葉遣いを見つけると「御用だ!御用だ!」と騒ぎ立てる『御用』や、酒場に現れてうっかりしているとお酒を奪う『妖怪おちゃけ』。風呂場にたまった人の垢をなめる妖怪「垢嘗(あかなめ)」が原発事故で人がいなくなった地でひっそりと放射性物質をなめているという『妖怪 除仙』などなど、現代でも妖怪は生まれ続けているのだ。 『POP YOKAI 現代百鬼夜行 Contemporary Character Art of Japan』(妖怪美術館・編著/香川雅信・監修/Rockbook)は日本の妖怪文化と現代の妖怪アートを和英バイリンガルで紹介。国内では洋書取り扱い店にて9月より先行発売、11月より世界各国で発売される。
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