インバウンド需要の鈍化と円安・物価高の個人消費打撃で非製造業の景況感が17四半期ぶりに悪化(日銀短観・6月調査):7月金融政策決定会合の展望
電気・ガス補助金復活の効果は限定的
岸田首相は、5月末に廃止した電気・ガス補助金を8月から3か月間復活させる方針を示した(コラム「政府は廃止した電気・ガス補助金を8月に一時復活か」、2024年6月21日、「2段構えの経済対策:岸田首相記者会見」、2024年6月24日)。補助金の額は前回と同水準となる見通しだ。 この補助金復活による景気刺激効果を考えると、個人消費は1年間で+0.06%、GDPは+0.02%とかなり限定的だ(内閣府、短期日本経済計量モデル・2022年版に基づく)。
実質賃金プラスの時期は9月に前倒しも消費の回復には直結せず
厚生労働省が公表した4月分毎月勤労統計(速報)で、現金給与総額の増加率から消費者物価上昇率を差し引いた実質賃金は前年同月比-0.7%と、過去最長となる25か月連続での低下となった。実質賃金の低下は、個人消費の逆風となる。 補助金の復活によって、実質賃金が前年同月比でプラスになる時期は、従来の見通しの今年12月から9月に前倒しされると予想される。ただし、実質賃金上昇率がプラス基調に転じても、それだけで個人消費が力強さを増す訳ではないだろう。 2022年以降、海外でのエネルギー・食料品価格の上昇、円安進行の影響を受けて、輸入物価は大幅に上昇した。日本は未曽有の「輸入インフレ・ショック」に見舞われたのである。物価上昇に賃金上昇が追い付かない時期が続く中、2021年平均と2023年平均との比較で、実質賃金は3.5%も低下してしまった。 年末に実質賃金が前年同月比で上昇に転じるとしても、「輸入インフレ・ショック」前の水準に戻るのには、まだ何年も要するだろう。「輸入インフレ・ショック」の後遺症はまだ長く残るはずだ。
景気・物価情勢は日本銀行に追加利上げを慎重にさせる要因に
今回の短観の調査結果が、7月の決定会合やその後の日本銀行の金融政策に与える直接的な影響は限られるだろう。 短観でも改めて示された個人消費の弱さは、追加利上げを一定程度制約する要因だ。また、物価動向についても、日本銀行が持続的な物価上昇、2%の物価目標達成の条件とする、賃金からサービス価格への転嫁も明確に確認されていない。消費者物価統計のサービス価格上昇率は低下を続けている(コラム「円安下でも基調的な物価上昇率の低下傾向が続く(5月CPI統計):2%の物価目標達成は難しい」、2024年6月21日)。 年明け後に一時上振れていた企業サービス価格の上昇率も、6月分では前月比-0.1%、前年同月比+2.5%と予想外に大きく下振れ、賃金上昇がサービス価格に転嫁される期待を裏切った。こうした物価動向は、日本銀行に追加利上げを慎重にさせる要因となるだろう。