米国はウクライナ戦争を止めたいのか続けたいのか、元外務次官が首を傾げるブリンケン国務長官の外交センス
■ 岸田政権の防衛費倍増で最もビックリしたこと 薮中:今年5月、習近平国家主席のフランス訪問がありました。フランスは、ロシアとウクライナを停戦に持ち込むためには中国が必要だと考えています。 マクロン大統領は、2022年の夏から停戦を求め続け、一時期、ゼレンスキー大統領を怒らせていました。ウクライナからするとほしいのは停戦の呼びかけではなく、武器の供与です。 でも、やはりどこかのタイミングで停戦に持ち込まなければならない。その際に中国の存在も必要だと考えているのです。 ウクライナがなぜ停戦を嫌がるのかといえば、「下手に手を打つと、またロシアが侵攻してくる」と考えるからです。ミンスク合意をやったのに、結局また侵攻してきた。ですから、停戦に持ち込むためには、世界はその恐怖に答える必要がある。 まず米国が停戦交渉に入らなければなりません。当たり前のように思われるかもしれませんが、実は、2015年のミンスク合意には米国は入っていません。ドイツとフランス、そして当事者としてロシアとウクライナで作った合意です(※)。 ※ミンスク合意は2014年に結ばれたものと、2015年に結ばれたものがあり、2015年のミンスク合意にはドイツとフランスが入っている。 ここに米国と中国を入れる。そうすると、またロシアが将来ウクライナに侵攻しようとしても、今度は中国が明確に反対しなければならなくなる。やがてそのような、停戦の議論もあり得ると思います。 ──米国にとってロシアは長年厄介な存在でした。特にプーチン大統領は厄介です。プーチン政権が崩壊するところまでいかないと、米国はこの戦争を止められない。そういう意識もあるのではないですか? 薮中:そういう考えを持つ人も米国にいると思います。でも、実際にプーチンが倒れるまで戦い続けることができるのか。我々は外交や国際問題は5年単位で考えることが多いのですが、向こう5年でプーチン政権が倒れそうには見えません。だからどうするのか、これを考えなければなりません。 ──本書の中で、岸田政権が防衛費をGDP比2%の11兆円に引き上げる決断をしたことについても言及されています。この決定について、どんな印象をお持ちになりましたか? 薮中:亡くなった安倍元首相は、日本の防衛力強化と、憲法に自衛隊を書き込むことを努力された方でした。2012年に第二次安倍政権が発足した時の防衛費は4.6兆円ですが、7年8カ月の安倍政権で防衛費は最終的に5.3兆円になりました。7000億円の増加です。 ところが、岸田政権は防衛費を2027年度にGDP比2%の11兆円以上にすると決めました。5.5兆円から最低11兆円です。少しは経済も成長するでしょうから、12兆円や13兆円になりうる。ものすごい増加ですが、岸田さんはあっさり決めた。 一番の驚きは、「仕方がないよね」と国民から大きな反対の声があまり出なかったことです。