米国はウクライナ戦争を止めたいのか続けたいのか、元外務次官が首を傾げるブリンケン国務長官の外交センス
■ 真逆の対応を見せた米国の外交姿勢 薮中:ウクライナ侵攻に関しては、事前にプーチン大統領とバイデン大統領の電話会談が2度ありました。2回目は2022年2月です。オリンピックが終わるので(2022年2月20日が北京冬季オリンピックの閉会式)、ここからが危ないと緊張が高まったタイミングです。 この時に、ブリンケン長官はハワイで、日米韓で北朝鮮問題を話していた。もちろん、3カ国の外相が話す機会は重要ですが、ロシアが戦争を始めようかという、まさにそのタイミングに、それを差し置いてやるべきことか疑問です。 バイデン大統領は「ウクライナは民主主義国家として十分に成熟していない」「ウクライナのNATO入りはまだ現実的ではない」とメディアに語っていた。なぜこの見解をロシアに伝えなかったのか。 ──米国はロシアをおびき出したかった。侵攻が始まったら、世界中でロシアにいろんな制裁をかけて孤立させ、追い詰めることができるから。そういうことはありませんか? 薮中:それはないと思います。というのも、バイデン政権にとって一番の相手は中国です。大統領になってから、彼はずっとそう言ってきた。ロシアをさほどの相手とは見ていませんでした。2021年夏には、米ロ首脳会談を行い、両首脳はわりとにこやかに話している。ロシアをおびき出して叩く必要などなかったのです。 結果としては、米中の対立関係もどこか浮いてしまったというか、中国との対決から、中国の協力も仰ぎながらロシアに対抗していかなければならなくなった。狙ってやったとは思えません。 さらに、私がよく分からないのは、2021年11月10日に、米国とウクライナが「戦略的パートナーシップ憲章」に署名していることです。その時に米国はウクライナを支持すると言っている。NATOに入ることも支持すると言っている。経済的にも、政治的にも、軍事的にも、ウクライナを支持していくと表明しているのです。 ──ウクライナのNATO入りは時期尚早と言っていた先ほどの発言とは真逆ですね。 薮中:真逆なのです。米国の外交の姿勢がよく分からない。いったいどこまできちんと考えてやっていたのか。 ──本書では、米国に代わってむしろ中国がロシアとウクライナの仲介になり、交渉の可能性を切り開こうとしていることについても言及されています。 薮中:中国は難しい立場にいると思います。米国と競争している中で、ロシアを自分の仲間にしておきたい。 他方、中国の基本姿勢は「内政不干渉」であり「領土の保全」です。だからこそ、ロシアが主権国家のウクライナを侵略したことは、本来支持できない。中国とウクライナの関係も悪くありませんでしたから、スパッとモノが言えないのです。 ゼレンスキー大統領は、こうした中国の置かれている立場を理解しています。だから、2023年2月に中国が「12項目の提案」を出した時に(※)、米国はロシアを批判しない中国の提案に否定的でしたが、ゼレンスキー大統領は一定評価して、習近平国家主席とも会談する姿勢を見せたのです。 ※中国の12項目の提案:ロシアのウクライナ侵攻に対する中国の主張を12項目にまとめた文章。(1)すべての国の主権尊重、(2)冷戦思考の終了、(3)戦争の終了、(4)和平対話の始動、(5)人道危機の解決、(6)民間人と捕虜の保護、(7)原子力発電所の安全確保、(8)核兵器使用への反対、(9)食糧の保障、(10)一方的制裁の停止、(11)産業チェーン・サプライチェーンの安定確保、(12)戦後復興の推進