楽器が弾けなくても“音”を操作して遊びたい iPhoneと『SP-404MKII』で始めるサンプラーのススメ(前編)
楽器は弾けないけれど、「サンプラー」が気になっている。 サンプラーとは、とてもざっくりいうと「録音した音をボタンに割り当てて再生する機械」の総称だ。いくつかあるボタンに対して「ボタンAにキック」「ボタンBにスネア」「ボタンC・Dにオープン/クローズハイハット」などと割り当てて叩くと、この機械だけでドラムセットを再現できる。 【画像】勢い余って筆者が自費で購入した『SP-404MKⅡ』 こうした音楽的な用途のほかに、演劇やテレビ番組の制作時に「ポン出し」用の機材として使われることも多く、たとえばクイズ番組の出題時に鳴る「デデン!」「ピンポーン!」というSEをボタンごとに仕込んでおくなど、「ちょっとした音を鳴らす」ということに大変便利に使える機械である。 多くの楽器メーカーが多様なサンプラーを販売しているが、その中でも歴史的な名機と呼ばれる機種の一つがローランドの『SP-404』だ。2005年の発売以降、シンプルな操作性と豊富なエフェクトがユーザーに受け入れられ、2009年には後継機の『SP-404 SX』が発売、ロングセラー製品となっていた。2021年には様々な仕様を現代向けにアップデートした後継機『SP-404MKII』が発売され、こちらも大人気サンプラーとなっている。 そして筆者は、この『SP-404MKII』という機種が、発売してからずっと気になっていた。 サンプラーのいいところは、楽器が演奏できなくても「ボタンを叩けばその楽器の音が鳴る」ところ。楽器に限らず、ピアノのメロディやドラムのループ音源などを仕込んでおけばポンと押すだけで音が鳴ってくれる。 ちなみにサンプラーで鳴らす音の素材を「サンプル」、サンプラーで録音することを「サンプリング」と呼び、多くのサンプラーにはサンプリングした音を順番に並べて再生する機能がある。シーケンサーというやつだ。サンプルを並べてループを作り、これをシーケンサーで鳴らしてエフェクトをかける。この一連の作業を1台でできてしまう。 Instagramで『SP-404MKII』と検索すると、このサンプラーをパワフルに叩いて楽器のように演奏する人もいれば、シーケンサーでループサウンドを鳴らす人もおり、いろんな使い方で楽しまれていることがわかる。 ちなみに、パソコンとDAW(音楽制作ソフト)とMIDIコントローラーがあれば同じようなことはできる。しかし「叩くと機械から音が鳴る」とか「つまみをひねると音が変わる」というようなフィジカルな反応には特有の面白さがあるし、それが1台の機材で完結していることもシンプルで好ましい。なにより「どんな音でも鳴らせる機械」というのはなんだかロマンがある。 ぜひ一度使ってみたいと思っていた『SP-404MKII』、ローランドさんに相談してお借りすることができたのだが、触ってみたらとても良い機材だったため勢い余ってそのまま購入してしまった。せっかく手に入れたのだから、私もツマミをぐりぐりして、上のような動画を撮ってみたい。ということで、この記事では『SP-404MKII』の使い方を覚えながら、最終的には簡単な動画を撮影してみようと思う。 ■iPhoneもケーブル一本で繋がる 豊富な接続系統と高い携帯性がGood あらためて、こちらが購入した『SP-404MKII』である。前機種から操作系を大きく変えることはせず、しかし現代的な意匠にアップデートされている。ブラックを基調にしたカラーも渋くて格好いい。重さは1.1kgなので、膝の上に乗せて使うのも苦にならない。 インターフェイスも豊富で、楽器やダイナミックマイクを接続可能。ステレオミニプラグでイヤフォンを接続できるのも手軽でありがたい。 また、USB-Cポートを備えており、パソコンやiPhoneとも接続可能。接続すると『SP-404MKII』をオーディオインターフェイス(DAC)として使うことができる。サウンドの入出力形式は48kHz/16bitと昨今の機材としては性能は若干控えめなものの、普通のリスニングには十分すぎる性能だろう。ちなみに、iPhoneと接続する際にはUSB-Cケーブルを1本つなぐだけでiPhoneが本機を認識し、音声の入力が自動的に本機へと切り替わる。この、「iPhoneとケーブルを一本つなぐだけで音声・動画を収録できる」というのが非常に便利で、こういう機材は意外と無いのだ。 また、給電方法が豊富なのも特徴だ。付属のACアダプタでの利用はもちろん、単三電池6本での駆動にも対応、加えて前述のUSB-Cで給電することもできる。私は単三電池を入れるとせっかくの軽さが台無しだと思い、外出時の使用にはUSB-C接続が可能なモバイルバッテリーを使っている。 ステレオミニ入力に対応しているため、普段使っているイヤホンがそのまま挿せたり、バッテリー駆動に対応していたり、iPhoneとケーブル一本で繋いで使えたりと、様々なシーンを想定した設計になっており、これが大変うれしい。 さて、『SP-404MKII』は一台でサンプラー・エフェクター・オーディオインターフェイスを兼ねるとても多機能な機材で、買ってしばらく経つが触れていない機能がたくさんある。そのすべてを網羅的に解説すると大変な分量になってしまうので、ひとまず基本的な使い方をさらっていこうと思う。 まずは電源を入れる。本体上部のスイッチをオンにするとディスプレイが点灯し、「ローランド」のロゴが表示される。ちなみに指定の形式の画像を作ってインポートすることで、ここに表示される画像をカスタムすることもできるようだ。電源をオンにして16個のパッドを叩くと、本体にはじめから収録されているサンプルを聞くことができる。 上部にあるツマミは左上がボリューム、残りの3つは左から数えて「CTRL1」「CTRL2」「CTRL3」というコントロール用のツマミで、設定の編集やエフェクトの操作、サンプルの加工などさまざまな役割を持っている。 画面の両脇にあるボタンは音の性質を変化させるエフェクトのボタンだ。デフォルトでは代表的な5つのエフェクトが前面にボタンとして表示されており、「MFX」のボタンを押すともっとたくさんのエフェクトが選択できる。デフォルトでエフェクトが割り当てられているボタンに、別のエフェクトを割り当てることもできる。 高音・中音・低音を選んでカットできる「ISOLATOR(アイソレーター)」の効き方などは動画で観たようにパワフルで「これこれ!」という感じ。「PATTERN SELECT」を押して番号の書いてあるパッドを押すとあらかじめプログラムされているデモソングを再生できるので、これを流しながらエフェクトのつまみをひねってみると効果がわかりやすい。そしてそれだけでも楽しい。 こういった機材を使うときにまず覚えたいのが音の鳴らし方と、止め方だ。サンプルもパターンも、音を鳴らすには基本的に1~16の番号の振られたパッドを叩けばOK。「EXIT」ボタンを4回押すと音が止まる。パターンの再生を止めたいときには「Shift」キーを押しながら「EXIT」を押せばOKだ。 音楽制作の中心がDAWになって久しい昨今、こうした機材は機能の取捨選択とその明示方法でカラーが出る。本機は外に持ち出して使ったり、膝の上に置いてヘッドフォンを付けて簡単な編集を行ったりといった用途には特に向いており、「手軽に」使える機材だと感じた。反面、全ての機能を網羅しようとするのは結構大変。多くの機能が階層化しており、「Shift」キーと他のキーの組み合わせでアクセスする必要があるし、旧機種から操作感を引き継いでいると思われる部分は新規ユーザーである私には慣れが必要だった。ただ、個人的にはボタンをたくさん押したり、機材の使い方を覚えたりすること自体が楽しいので、悪い印象はあまり無い。 さて、長くなってしまったので、今回は前後編でお届けしようと思う。次回はサンプル音源を使って『SP-404MKII』を手軽に楽しむ方法、本体と一緒に使っているアクセサリ、そしてiPhoneと接続しての動画収録などについて解説していきたい。 (文・写真=白石倖介)
白石倖介