パリ五輪体操個人総合金メダリスト岡慎之助の何がどう凄いのか?
鉄棒では、コールマン、伸身のトカチェフの離れ技を着実に成功させ、フィニッシュの伸身の新月面宙返り下りの着地もまとめた。この時点で、中国の肖若騰を抜きトップへ躍り出た。最終演技者の張が14.867点以上を出せば、逆転されるという微妙な位置で全競技を終えて運を天に任せた。そして、その張は、フィニッシュ前の倒立が乱れるというミスを犯した。 畠田氏は岡の鉄棒の演技にも小さなミスがあったと指摘した。 「岡の前半はいい演技でしたが、アドラー1回ひねり、アドラーハーフが少し流れていました。着地も動きました。細かいミスはあったのです。でも、それ以上のミスを張がやってしまいました。伸身のトカチェフは、足が鉄棒にかすっているし、チェコ式車輪からケステ(順手背面懸垂前振り上がり後方浮腰回転倒立)に移行した際にも減点対象となるミスが出ていました。結果的に技がつまり倒立が乱れました。0.3からジャッジによっては0.5の減点はあったと思います。張がノーミスで演技をしていれば、15点台には乗っていて岡の金メダルはなかったことになります」 優勝インタビューで岡は、「しっくりくる演技はできていない。ゆかの着地は良かったが、後半はきつかった。なんとかこらえて演技した」と反省を口にしていたが、そういう細かいミスがあったことを自覚していたのだろう。 だが、それらも含めてすべてが4年に一度の五輪という舞台なのだ。 では、岡の何がどう優れているのか。 畠田氏は、こう分析している。 「岡の強さの秘密はEスコア(出来栄え点)です。Dスコア(技の難度点)では、橋本や張には及びませんが、Eスコアでしっかりと得点をマークできます。Eスコアで評価を得ることができている理由は、ジュニア時代から指導者に教えられ、取り組んできた基本にあります。例えば、基本の倒立姿勢、足をつま先まで綺麗に見せるなどの基本が染みついていて演技の質が高いんです。演技に余裕が出てEスコアが上がります。通常はDスコアを上げ、演技の難度を上げていくと、粗さが目立ったり、体力的な負担で、演技が乱れたりして、このDスコアとEスコアのバランスを保つことが難しいのですが、彼は、その後、徳洲会に入ってEスコアのレベルを下げることなくDスコアを上げていきました」 6種目のDスコアを橋本、張と比べると岡が3人の中で勝っているのは得意とする平行棒の6.5ひとつしかない。それでも勝負できたのは着地に象徴される繊細で美しい表現力だ。実は岡が中学一年の頃に畠田氏が指導する日体大の練習にきたことがあった。 驚くことに、その時、初めて挑戦したという跳馬のロペスを成功させ、つり輪では、すでに伸身のルドルフを会得していたという。
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