発案から10年目の公開を実現させた、「情熱と執念と“坂口健太郎”」
綾瀬はるかの魅力とは?
稲葉プロデューサーは、『ハッピーフライト』(2008)を担当していた頃から、綾瀬を主役にした今回の映画をつくりたいと思っていたという。20代から30代へ、時を経ても変わらぬ綾瀬の魅力は、どんなところにあるのだろうか? 稲葉:一言で言い表しづらいんですよね。似ている人が、ほかにいないんですよね。シリアスなものからコメディーまでもできるふり幅のある、女優さんですが、とにかくチャーミング。そのチャーミングさが唯一無二なんです。 武内:そうですね。女性としてかわいらしいさというのもありますが、女優さんとしてもっともっと魅力が眠っているんじゃないかと思わせるようなところがあって、なんて言ったらいいのだろうって感じですね。存在じたいが特別なんですよね。現場で2カ月くらい付き合ってきたんですけども、演技をしていないときでも、常に特別なオーラを放っていました。こういう人なかなかいないなって思います。楽しかったです。異次元の世界にいるように見える、それなのにそれがつくられた感じではなくてすごく自然なんですよ。
カラー映像の中にと白黒映像が。うまく組み合わさっていて、不自然な感じはない。10年寝かせているうちに映画の表現技術も向上したのでは? 稲葉:撮っているときはそのままの綾瀬さんでした。カラーの世界の中に白黒の主人公がする、っていう在り得ない世界観が、お客さんに受け入れられるか、とても不安ではありました。違和感があったり、安っぽっく見えてしまったら、その時点で物語に気持ちが入っていけなくなりますからね。だからカメラマンとVFXスタッフには、そこだけは失敗したくないのだと最初から相談していました。 武内:撮ってはみたものの、「あちゃー」って感じにならないか、本当に不安でした。でも、意外と出来上がったものを観てみると、我ながらいいんじゃないかってなりました。安心しましたね。
「映画の仕事っていいな」 きっかけとなった作品とは?
映画のさまざまなところに、名画のオマージュと思える場面がちりばめられている。例えば『ニュー・シネマ・パラダイス』(1988)や『ローマの休日』(1953)、『カイロの紫のバラ』(1985)など、映画ファンにはうれしい仕掛けが盛りだくさんだ。二人にとって、「映画の仕事っていいな」と思うきっかけとなった作品とは? 稲葉:僕はやっぱり『ニュー・シネマ・パラダイス』ですね。中1のときだったんですけれど、ロングランで銀座でやっていたんですね。観たら号泣してしまって。でもそのときに初めて、こんな素晴らしい映画をつくっている人たちがいるんだ、って意識し始めました。それまで『バック・トゥー・ザ・フューチャー』(1985)とか『E.T.』(1982)とか映画館に観に行ってましたが、面白かったぁとは思うんですけど、それで終わっていたと言いますか。『ニュー・シネマ・パラダイス』は映画には、つくり手がいるということが初めて教えてくれた映画でした。ああいう話ですからね。いつかは映画をつくる仕事をやってみたいと思ったきっかけが、この映画です。 武内:本当は同じなんですけれど、かぶるかな~って。僕はもっと前に、初めて観たのが角川映画の『野生の証明』でした。小6だったんですけど、薬師丸ひろ子さんがすっごく美しくて、高倉健さんがすっごくカッコよくて、戦車がばーっと出てくるシーンを観たときに、映画って面白いなって思って。最後は号泣したのを覚えています。