発案から10年目の公開を実現させた、「情熱と執念と“坂口健太郎”」
近年の日本映画は、漫画や小説の原作ものが多い。そんな中、映画のための書き上げられたオリジナル・ストーリーによる『今夜、ロマンス劇場で』が発案から10年の時を経て、全国の劇場で公開され、大ヒットを記録している。 物語は昭和35年、映画が人々の一番の娯楽だった頃。映画監督を夢見る青年・健司(坂口健太郎)は、もう誰からも観られず忘れ去られた白黒映画を毎晩、観客のいなくなった映画館“ロマンス劇場”で上映していた。映画に登場するお姫様・美雪(綾瀬はるか)に恋をしていたのだ。ある日、落雷で奇跡が起こり、白黒の美雪が突然、健司の目の前に現れる。“ある秘密”を抱えたまま、色のある世界へ舞い降りた美雪と健司のロマンスが展開する。
思いっきりときめけて、笑えて泣ける同作は、稲葉直人プロデューサーの「映画館でしか楽しむことのできないオリジナルの物語がもっとあってもよいのではないか」という思いから始まった。日本では唯一といえるコメディエンヌの要素と気品を兼ね備えた綾瀬の魅力を最大限に引き出したのは、『テルマエ・ロマエ』(2012)でタッグを組んだ武内英樹監督だった。 筆者が同作の試写を観たとき、最初に訪れた「泣き」の場面は、“ロマンス劇場”映写室で健司が、埃をかぶった映画フィルムの缶を取り出すところだった。 「それは最速ですよ」。インタビュー冒頭から大爆笑で迎えてくれた稲葉プロデューサーと武内監督。いやいや、なかなか説明しづらいのだが、ある種の郷愁と随所に見られる“映画愛”が全編を通して伝わってくるので、観る人にとって、どの部分が刺さるかはわからない。切ないロマンスの部分はもちろん、レトロな“ロマンス劇場”、名言の数々など、グッとくる場面がいくつも波のように押し寄せてくる。
「綾瀬はるか」ありきの企画 相手役・坂口健太郎の登場を待って、映画化が実現
さて、発案から10年。とても面白いと思える企画なのに、なぜ映画化までこれほど時間がかかってしまったのだろうか? 稲葉:たまに聞きますよね。構想、10年とか。なぜ、それだけ時間がかかったのか? それは坂口健太郎という俳優を待っていた! ということですね。 武内:カッコよく言いますね(笑)。 稲葉:綾瀬さんありきでこの物語を考えたのですけれど、当時、振り回されるほうのチャーミングな映画青年の役を依頼できる方が、日本の俳優界にいなかったんですね。3年くらい前でしょうか、俳優業に進出された坂口さんの存在を知って「ついに現れた!」と思ったのは。というわけで10年かかった理由を聞かれたら、坂口健太郎という俳優の登場を待っていたから、と言うようにしています(笑)。でも実際のところは、それだけではないですね。だいたい、構想何年っていうのは、お金が集まらなかったとか、さまざまな不可抗力があってがとん挫してしまった時期があると思うんです。それでも映画にできたというのは、情熱というか執念、それに最高のキャスト・スタッフと出会えたからだと思います。