英雄ナポレオンは、なぜ稀代の悪妻ジョセフィーヌにぞっこんだったのか?【齋藤 薫】
この人でなければ演じられなかったというほどの女優は誰か?
第一印象は、小悪魔的で妖艶。しかし知るほどに、怖いもの知らずで大胆不敵。でもさらに、狡猾で冷酷かと思うと、どこかピュアで弱さも見せる。で、最終的には、結構いいやつで愛情深い……というように、矛盾がありすぎてつかみどころがない女性。だからハマるのです。 ただそうなると、半分はジョセフィーヌを演じた女優の勝利とも言えるはず。ご存知でしたか? ヴァネッサ・カービーという女優。Netflixの「ザ・クラウン」で、若い頃のマーガレット王女を演じた人、と言えば覚えがあるはず。 エリザベス女王の妹として、影の存在でありながらその美貌と個性で絶大な人気を博した一方、離婚歴のある年の離れた軍人に恋をして一大スキャンダルを巻き起こし、理不尽にも結婚を認められずに、自暴自棄になるという王女の波乱の半生を見事に演じて、英国アカデミー賞を受賞しています。 その時からなんと粋な女優だろうと思っていたけれど、このジョセフィーヌ役こそ、この人でなければならなかったと思うほど、“悪妻・悪女にして、とてつもなくいい女”を時にセンシティブに、時に大胆に演じているのです。
征服欲の強い男は、気の強い女が大好き?
ちなみに、闘争心と征服欲のある男ほど、気の強い、意のままにならない女に強く惹かれる生物学的傾向があるといわれますが、戦うたびに勝利を収め、世界征服さえ夢でなかったナポレオンが、つれなくされるほど、無視されるほど、馬鹿にされるほど、ますますジョセフィーヌの虜になっていった大きな理由の一つはそれ。 やがて、あまりのことにナポレオンが怒りに任せて離婚をほのめかすと、逆にジョセフィーヌの方がすがりつく……そういう一面を持っていることに、なおさら女としての不可解さを感じさせます。そして、全くもって男と女は、不思議。 いずれにせよ夫婦になってからの恋愛模様が興味深すぎる夫婦の物語は、悪妻も良妻も、また、結婚を考えている人も、離婚を考えている人も、ぜひ見ておきたい。なかなかヘビーな戦闘シーンは半目で観ることになるかもしれないけれど、意外なところにそういう歴史の裏側を覗き見ることができるのは、興趣いっぱいです。 ナポレオンのイメージも、ましてやジョセフィーヌのイメージも、はっきりと変わるはず。それこそが実話ものの醍醐味だし、本当の歴史を知ることなのだと、胸がワクワクしてくるはずなのです。人間って、男と女ってなんて面白いのだろうって。 構成/藤本容子
齋藤 薫