英国衝撃TKO勝利の井上尚弥はパッキャオを超えるのか?
飯田氏も「井上は、あの左はよほどのミスをしない限りもらわないし、耐久力がついてきている井上は倒れないだろう。ロドリゲス戦よりもっと早く決着がつくかもしれない」と予想する。筆者も同じ意見。世界を驚かせた秒殺が4試合続くことになる。 問題は、そのドネア後だ。 これまでもマッチメイクに苦労してきた大橋会長は、「WBSSの何がいいかと言えば、トーナメントだからマッチメイクに困らないこと。しかも、チャンピオンと対戦できる。そうでなければ誰も試合をしてくれない」と語っていたが、ドネア後には、再び、その強いがゆえの問題に直面することになる。 現在のバンタム級で、まだ対戦していない強豪は、ドネアとの準決勝が流れたテテ、そして、ドーピング、体重超過などの“反則”で、元WBC世界バンタム級王者、山中慎介氏を2度倒して現在、日本ではJBCから無期限の試合禁止処置を受けているルイス・ネリ(24、メキシコ)の2人しかいない。今回、井上がベルトを授与された米国のボクシングの権威あるメディア「リング誌」は団体の枠を超えて独自ランキングを作成しているが、4月27日の発表では、2位がテテ、3位がロドリゲス、4位がネリ、5位がドネアとなっている。 テテとの戦いは3団体統一戦、日本のボクシングファンから最も嫌われている無敗のネリとの戦いには、山中氏の敵討ちとしての盛り上がりはある。 テテは、身長175センチ、リーチは180センチを超えるサウスポーで2017年11月のシボニソ・ゴニャ戦では、1ラウンド11秒の世界戦での世界最短KO記録を作って話題となった。ただ、その後の2試合は凡戦。しかも井上が2ラウンドまでに4度ダウンを奪い圧勝した40歳を超えるベテランのオマール・ナルバエス(アルゼンチン)とも判定までもつれこむなど、パワー、スピード共に決め手に欠けるボクシングだった。 飯田氏は、「井上が苦労するとすれば長身の技巧派サウスポーだろう。ジャブの差し合いで勝ち、カウンターの怖さを持ち、パンチの大小を持っていることが条件。村田諒太が負けたロブ・ブラントのバンタム版のような選手ならば苦労するが、テテは少しパワーが不足しているかも」と言う。一発があり攻撃力はネリが最上位だが、「ネリだと井上とは逆に噛み合う」と見ている。 しかも、井上の減量の辛さを考えるとバンタム級ではドネア戦の次までが限界。そこでテテ、或いは、ネリとの因縁マッチが実現したとしても、次はスーパーバンタムへの転級が有力だろう。WBSSが、井上を前面に立ててスーパーバンタム級を開催してくれればいいが、どうも運営基盤が怪しく、独自にタイトル路線を練るしかない。 ただミドル級の統一王者、サウル“カネロ”アルバレス(メキシコ)や、ゲンナジ・ゴロフキン(カザフスタン)と、複数試合の巨額大型契約を結んだDAZNなどが、井上に興味を示しており、そうなれば、次々とビッグファイトが組まれる可能性がある。スーパーバンタム級には、ジムの後輩である松本亮が倒されたWBA&IBF統一王者のダニエル・ローマン(米国)、亀田和毅と統一戦を行うWBC同級正規王者のレイ・バルガス(メキシコ)らの対戦候補がいる。 加えて大橋会長は「驚くほど成長してパワーがついている。フェザークラスとのスパーでも圧倒しているし、将来フェザーまで間違いなくいける」と、前々から語っており、スーパーバンタム級でライバルを蹴散らした後は、さらにひとつ上のフェザー級へ挑戦する可能性がある。そうなれば、あのパッキャオに並ぶ5階級制覇を果たすことになる。一度、スーパーフライ級で戦っていた頃の井上に「あなたは第2のパッキャオになれると思うか?」と聞いたことがあった。 「パッキャオとなると5階級制覇ですよね? そこはさすがに難しいかもしれないですね」と返してくれたことを覚えているが、ここまでのレベルアップと、今後、積み重ねるキャリアというプラスアルファを考慮すれば、5階級制覇は視野に入る。 今後“モンスター”井上が世界のボクシング界をどこまでリードする存在になるのか。まだ26歳の井上は、ここから過去の日本人ボクサーが行ったことのない未知の領域にチャレンジしていくことになる。 (文責・本郷陽一/論スポ、スポーツタイムズ通信社)