英国衝撃TKO勝利の井上尚弥はパッキャオを超えるのか?
英国グラスゴーで開催されたWBSS(ワールド・ボクシング・スーパー・シリーズ)の準決勝でWBA世界バンタム級王者、井上尚弥(26、大橋)がIBF世界同級王者、エマヌエル・ロドリゲス(26、プエルトリコ)を“フルボッコ”にして2回でキャンバスに沈めた試合の衝撃は世界へ広がった。海外メディアが総じて評価するのは、昨年5月にWBA世界バンタム級王者、ジェイミー・マクドネル(33、英国)に挑戦した世界戦が112秒、昨年10月のWBSS1回戦の元WBA世界バンタム級スーパー王者のファン・カルロス・パヤノ(35、ドミニカ)との試合が70秒と、ここ3試合続けて、レベルの高い世界王者、元王者をいとも簡単に2回までに倒し続けてきたことだ。 殴れば倒れる――の破壊力は、もはや、マイク・タイソン、5階級王者で、現WBA世界ウェルター級王者、マニー・パッキャオの全盛期級である。パウンド・フォー・パウンド(階級がないと仮定してのランキング)で井上が高く評価されるのは、そういう理由だ。 WBSSの決勝戦では、5階級王者のノニト・ドネア(36、フィリピン)と対戦するが、その先には世界のボクシング界に新たな歴史を刻む大きな可能性が広がっている。
TKO決着理由は“膝”にあり
グラスゴーの伝説だった。 ロドリゲス戦の衝撃TKO劇の理由を“理論派”の元WBA世界スーパーフライ級王者、飯田覚士氏に解説願う。 井上自身も「ロドリゲスがプレッシャーをかけてきて1ラウンドが終わって、どうなることか自分でも予測できない状況だった。これまでにないくらいに力んだ。キャリアのなさ。初めての英国での試合の影響などもあった」と振り返るほど、1ラウンドは緊迫していた。 「ロドリゲスは強い気持ちを持ってプレッシャーをかけにきた。井上相手には先手を取るしかないが、ジャブの差し合いでも優位に立ち、右のカウンターを打ち下ろしながらコンパクトに無駄な動きの一切ないボクシングでつめてきた。距離感が合い、井上の動きが力んで堅かったこともあって、パンチを見切ってスウェーで空振りさせ、井上がかぶせてきた右も前に出ることで、その距離を潰した。もしかしたら逆に2、3ラウンドでロドリゲスが井上をダウンさせるシーンもあるかもしれないとまで想像させる出来だった」 だが、2ラウンドに入って状況は一変した。 飯田氏は、ポイントは「膝」だと指摘した。 「たった1分のインターバルで力みを取る修正ができていた。膝を軟らかく使うことで重心が沈み、足が前後に動き、スピードが出た。ダウンを奪うショートの左フックの前に、スピードを意識したワンツー、ジャブのコンビネーションからストレートにつなげたが、あれが伏線だった。ロドリゲスは井上のスピードに圧倒されプレスを利かせることができなくなった」 そして最初のダウンは左のショートフック。その後、ロドリゲスは、2度立ち上がってきたが、いずれもボディで悶絶させ戦意を奪い取った。 「左のフックは右ボディから左フックのコンビネーションだった。ロドリゲスも打ちにきたので、相打ちにもならずに仕留めた。井上の凄いのは、その後、上を攻めずにボディにターゲットを絞ったところ。冷静な判断だった」と、飯田氏は絶賛した。 試合後、リングサイドに招待されていたノニト・ドネアがリングに上がりインタビューに答え、2人は互いにリスペクトしながらフェイスオフをやった。大会側としては元5階級王者の“レジェンド”ドネアとの決勝戦を盛り上げたいのだろうが、ドネアは過去の人。 4月27日に行われた準決勝では、肩を痛めて棄権したWBO世界同級王者、ゾラニ・テテ(31、南アフリカ)の“代役“だった同級5位のステフォン・ヤング(30、米国)を6ラウンドに左フック一発で仕留め健在ぶりをアピールしたが、そこまでは左のカウンターやステップワークに苦しみ、スピード、キレ、パワーとも衰えが顕著だった。豊富なキャリアがあり、それを生かしたリングゼネラルシップが不気味だが、数々の名勝負を演じて“フラッシュ”と恐れられた伝説の人も36歳である。