「これからの10年も、今までと変わることなく、足元を固めていけたら」笑点“にも出ている”春風亭一之輔「落語一之輔」への想い
落語家・春風亭一之輔による恒例の独演会『落語一之輔』が今年、11年目を迎える。毎回チケットが即完売となる大人気の公演だが、11月28日から3夜連続で開催される同シリーズの最新公演『春秋三夜 2024秋』もしかり。だが、オンライン配信でも楽しめるハイブリッドであることがうれしい。生配信にくわえ、2週間のアーカイブ配信期間があり、何度でも繰り返し観られるのは、なおさらうれしい。 【全ての画像】春風亭一之輔インタビュー写真ほか 「会の趣旨にもよるけれど、この『落語一之輔』には、配信というスタイルはあっていると思う。落語というのは、1000人、2000人の大きい規模でやるわけではないから、どうしても会場に来られない人は出てくる。遠くて来られなかったり、体の具合が悪かったり。そういった人に、オンラインで高座を観てもらえるのはとてもありがたいこと」 一之輔といえば、時事ネタをビビッドに取り入れた毒気のあるマクラが持ち味。ホールというクローズドな空間だけでなく、オンラインという場でも視聴できてしまうことで、少し手心を加えられるのでは…という見方は一蹴。「言いたいこと、言っちゃいます。マクラは前もって用意するのは好きじゃない。その場でぱっと降ってきたものを、言っちゃう。もしかしたら言っちゃいけないことも言っちゃってニュースになるかも。コタツ記事っていうのがあるでしょ、そういう記事書く人にはぜひ配信の券を買ってほしいね(笑)」と早くも切れ味は抜群の様子だ。 2014年に1日限りの公演としてスタートし、毎年1日ずつ増やすという試みを5年連続で行った。さらにはそれを上回る7夜連続公演、はたまた3日間で昼夜6公演を重ねたりと、タフでハードな挑戦を続けてきた。ゲストを迎えることもあったりと多様な趣向を凝らしてきたが、一貫するのは〝ネタおろし〟。新しく覚えた演目を、初めて観客の前で披露することだ。持ちネタが200席を超えてなお、もちろん今回の公演でも各日1席ずつのネタおろしに挑む。自らに負荷をかけることを楽しんでいるようにすら映るが、「いや、この公演の1カ月くらい前からはカリカリして、家の中が険悪というか、よどんだ空気になるんですよ(笑)。でも、『柳田(格之進)』とか、『文七(元結)』とか、この落語一之輔でおろして、自分の財産になっているネタもたくさんある。『意地くらべ』なんかは、特にそうですね。文句言いながらも、この会には助けられている」 ネタは財産。そう言い切る背景には、自身の人気にあぐらをかかない、冷徹ともいえるまなざしがある。「『笑点の一之輔』、じゃなく、『笑点にも出てる一之輔』じゃないとダメ。落語好きなら誰でも知っている、そんな実力者の方と一緒の会とか、そういった場で、一之輔を知らない人に向けて、自分の落語をどうやるか。そういったところをおろそかにしちゃいけない。コアな落語ファンと、笑点しか知らないファン。どちらのお客さんにも認めてもらわないといけない。だからこういう会はすごく大事なんですよ。ここでネタを増やして、そういうとこでも使えるように、自分で仕上げていく。自分の駒を育てるような感覚ですね」 本シリーズのお楽しみのひとつがグッズ。毎回レアなアイテムが注目だが、新シリーズ始動を記念する今回は、ますますグッズが充実した。ミニトートバッグ、過去10年のチラシのデザインをもとにしたクリアファイル、一之輔ゆかりの柄をちりばめた手拭い風ハンカチ。さらに、おみくじには一之輔自身が「リビングで書いた」というメッセージが添えられている。自分自身は「あんまり占いとか信じる方がじゃない」というが、《これぐらいがちょうどいい、伸び代って大切。》(中吉)などという一之輔のエッセンスが凝縮された言葉はファンならずとも(もちろんファンも)思わず微笑んでしまうことだろう。 今年7月には落語協会の理事に就任。人気にくわえ、背負うものも増えたが、「全然自分自身は変わんない」とひょうひょうとした姿勢は崩さない。「これからの10年も、今までと変わることなく、足元を固めていけたら」 取材:高橋天地 文:塩塚夢 撮影:毛利修一郎 <公演情報> 『春風亭一之輔独演会 落語一之輔/春秋三夜 2024秋』 2024年11月28日(木)~11月30日(土) 会場:東京・よみうり大手町ホール 【チケット】※入場チケットは完売 ■動画配信 料金:2,000円(税込) 視聴券(グッズ付):5,000円(税込、送料・手数料込) 全3公演通し視聴券:5,600円(税込) 全3公演通し視聴券(グッズ付):8,500円(税込、送料・手数料込)