松阪牛の“回転焼肉”を楽しめるのは「一升びん」だけ!唯一無二のワケを聞いた
三重県を代表するブランド牛「松阪牛」の産地、松阪市。そんな松阪牛を、回転寿司のように楽しめる焼肉店があるのをご存知だろうか。 【写真】画像中央のボタンを押すとルーフが開閉する。また、冷気が逃げないように、開いてから7秒経つと自動で閉まる仕組みとなっている 日本で唯一、回転レーン全体を覆う冷蔵式のルーフで、肉を新鮮な状態で保ちながら提供しているのが松阪市の老舗焼肉店「一升びん」だ。松阪市出身の筆者は、かねてより店舗を利用しているが、なぜこのシステムが他店で採用されていないのか気になっていた。 そこで今回、画期的なシステムを導入した経緯や日本で唯一無二の理由について、一升びんを運営する有限会社アイ・エス・ビー 代表取締役社長・浅井和夫さんに話を聞いた。 ■ブームの渦中で誕生した回転焼肉システム 1962年創業の老舗焼肉店「一升びん」は、三重県を中心に展開し、松阪牛など上質な肉を手頃な価格で楽しめることで知られている。なかでも「宮町店」は、回転焼肉を楽しめる店舗として地元客だけでなく観光客からも人気だが、回転焼肉システムが誕生した背景にはどのような経緯があったのか? 「2000年ごろ、回転寿司が人気だったこともあり、焼肉でも同じようなシステムを取り入れられないか検討していましたが、生肉の鮮度を保つため、寿司以上に厳重な温度管理が必要でした」 そんなとき、回転寿司コンベア機を製造する北日本カコー株式会社が、回転焼肉システムの原型となる設計図を保有していることを知ったアイ・エス・ビー。浅井さんは「従来の回転寿司では、ルーフを手動で開けて商品を取り出す方式が一般的でしたが、この設計図には電動でルーフを開閉する仕組みが記載されていたのです」と当時を振り返る。 そして2000年、回転焼肉が楽しめる「宮町店」がオープン。メディアにも取り上げられ話題となり、老若男女問わず多くの利用客でにぎわった。「今でも地元はもちろん、伊勢神宮への参拝帰りの観光客の方々にも、長年ご愛顧いただいております」と浅井さんは語る。 ■一升びんの回転焼肉システムが他店で再現できないワケ 2023年に宮町店は、左右にスライドして開くクリアルーフやタッチパネル式の注文システムを取り入れるなど、大幅にリニューアルした。それにしても、なぜ今もなお回転焼肉システムが他店で導入されていないのだろうか? 「かつて北海道の焼肉店でも、同様のシステムを導入した例がありましたが、現在は停止しているようです。おもな理由は、高額な初期投資と維持費用の負担が大きいことだと考えられます。弊社もシステムを導入する際、厨房設備や換気設備などの改修に多額の費用が掛かりましたからね」 加えて、浅井さんは「弊社がシステムを継続できているのは、松阪が肉の街として広く知られ、地元の方だけでなく多くの観光客が訪れるという地の利があるからでしょうね」と推測する。 ■外国人観光客に人気!名古屋に回転焼肉の新店舗オープン 回転焼肉を楽しめるのは長らく宮町店だけだったが、2021年、愛知県名古屋市の「イオンモール Nagoya Noritake Garden(ナゴヤノリタケガーデン)」内に、「回転焼肉 一升びん 名古屋則武新町店」(以下、名古屋則武新町店)がオープンした。 「宮町店をオープンしてから約20年が経ち、回転焼肉システムをほかの店舗でも展開したいと考えていたときに、ナゴヤノリタケガーデンさんから出店募集のお話をいただいたのがきっかけでした」 宮町店が地元客や観光客に親しまれているのに対し、名古屋則武新町店はインバウンド需要の高まりを受け、海外からの観光客も多く訪れる店舗となっているのだそう。「名古屋則武新町店は日本各地からのアクセスがよいので、国内観光客からの人気も高いんですよ」と浅井さん。また、今後については、利用客を飽きさせないため新たなメニューや演出を取り入れていきたいとのことだ。 1962年の創業以来、地元の人々はもちろん、観光客からも愛されている一升びん。肉の街・松阪ならではの、ほかでは味わえない回転焼肉を一度体験してみては? 取材・文=西脇章太(にげば企画)