ライター武田砂鉄が自民党総裁選に警鐘──「黙っていた人たちが作る『刷新感』に騙されないために」
任期満了に伴う自民党総裁選が9月12日告示―27日投開票の日程で実施される。「自民党の誤魔化しに騙されてはならない」とライターの武田砂鉄は警鐘を鳴らす。 【写真を見る】総裁選、9人の候補者
「裏金問題」をどうやって小さくみせるか、忘れてもらうか
ある特定のモノを売るため、その隣に、少し値段の高いモノやちっとも人気がないモノを置くと、それと比較して売れるようになる、なんて話がある。そんなに単純な動きは少ないはずだが、比較対象となるモノをどうやって配置するかを考えるのは、モノを売る商売に従事している人が毎日のように繰り返し考えていることだろう。 スーパーマーケットの一角で、「ようやく秋到来! フェア開催中!」などと書いたポップで彩り、そこにあれこれ置いてあると、やっぱり足を止めてしまう。素通りするのは難しい。ちょっと前まで、少しでも涼むためのあれこれが置かれていたことなんて忘れてしまう。日頃、置かれていた棚と違うところで展開されているだけなのに、なぜか気になってしまうのだ。 さて、自民党総裁選に9人が立候補しているが、ようやく秋を迎えたスーパーマーケットの「フェア開催中!」に似ている。どう似ているのか、整理してみたい。 *たくさん並んでいるので、それを見て、比較を始めてしまい、その上で「この人よりはこっちの人がいいかな」と特定の人を選んでしまう。 *大々的なフェアを告知するスーパーマーケットのチラシのように、総裁選についての報道ばかりになり、厳しく突っ込むわけではない討論会などが繰り返し報じられることによって、報道が政党の宣伝になってしまう。 *今回の総裁選は、自民党の裏金問題について不十分な対応を続けた岸田文雄首相の不出馬によって候補者が乱立したわけだが、そこに名を連ねている人たちは、これを機に自民党を変えようと組織に入ってきた人たちではない。むしろ、長年その党に居座り、裏金問題を厳しく追及するわけでもなく、黙って〝陳列〟されてきた人たちである。 *商品内容を変えずにリニューアルオープンさせるとなったら、とにかく強いスローガンやイメージ戦略が必要。総裁選も同様。立候補者のスローガンをいくつか並べてみると、「決着 新時代の扉をあける」「自民党は、生まれ変わる。」「国民と向き合う心、世界と渡り合う力。」「日本の新しい景色」といった具合。こうやって、やたらと大きく出てくるのだ。 これまでの在庫を、あたかも新商品であるかのように打ち出すフェアが開催されているのが今回の自民党総裁選である。しかも、このフェアには「裏金問題」をどうやって小さくみせるか、忘れてもらうかという、国民の疑念を萎ませる目的がある。カモフラージュのためのフェア、これをスーパーマーケットに準えて語ってしまったら、さすがにスーパーマーケットに失礼だろう。 自民党の裏金問題はちっとも解決していない。処分は不十分。そもそも、どのように裏金の習慣が始まったのかさえ、明らかになっていない。各派閥の会計責任者に責任を押し付ける形で、派閥の領袖たちはそれぞれ煮え切らない答弁を続けてきた。決定的だったのは、裏金作りに関与していた自民党議員の73名が国会の政治倫理審査会に出席しなかった事実。先の国会は、逃げ回ったまま、閉会してしまった。