ライター武田砂鉄が自民党総裁選に警鐘──「黙っていた人たちが作る『刷新感』に騙されないために」
繰り返し使われている「刷新感」
先ほど引用した候補者のスローガンに「~のは、今ではなく、先の国会でもできたはずなのに、それをしなかった議員の一人」とくっつけてみる。「新時代の扉をあけるのは、今ではなく、先の国会でもできたはずなのに、それをしなかった議員の一人」というように。意地悪だが、さすがに意地悪く問わないと、9人の大義名分に塗り替えられてしまう。 今回、自民党は総裁選のためのPRポスターを作成、歴代の総裁の写真を敷き詰めた上で「THE MATCH」と銘打ち、スローガンとして「時代は「誰」を求めるか?」を掲げた。並んでいる写真の大きさが考察されたり、全員が男性であることが批判的に言及されたりしたが、自分が気になったのは、スローガンにあった「時代」との言葉。自民党総裁選は国民の投票によって選ばれるのではなく、国会議員票と党員票によって決められる。選ばれた総裁が新しい首相になる仕組みとはいえ、閉鎖的な選挙に「時代」を背負わせると何が起きるかといえば、ここでもまた、これまで問われてきた諸問題の軽視である。 繰り返し使われている「刷新感」との表現。「刷新」ではなく「感」がくっついているように、今、自民党が獲得したいのは「自民党内から変えようと奮い立つ人たちがたくさん出てきた雰囲気」。だが、その雰囲気作りに励むこと自体が不誠実の証なのであって、それくらいは騙されずに、総裁選の行く末を見届けたい。
武田砂鉄 1982年生まれ、東京都出身。 出版社勤務を経て、2014年よりライターに。近年では、ラジオパーソナリティーもつとめている。『紋切型社会─言葉で固まる現代を解きほぐす』(朝日出版社、のちに新潮文庫) で第25回Bunkamuraドゥマゴ文学賞を受賞。著書に『べつに怒ってない』(筑摩書房)、『父ではありませんが』(集英社)、『なんかいやな感じ』(講談社)などがある。 文・武田砂鉄 編集・神谷 晃(GQ)