映画評論家が選ぶ2023年の映画ベスト3 ヒット作から見える今年の傾向
■現代につながる100年前の映画史『バビロン』
次に挙げたのは『セッション』や『ラ・ラ・ランド』を手がけたデイミアン・チャゼル監督作『バビロン』。ブラッド・ピットさんやマーゴット・ロビーさんら豪華俳優陣が出演し、1920年代のサイレント映画からトーキーに移り変わる激動のハリウッドを描いた作品です。 松崎:バビロンは映画に音がついていなかった時代から音が付く時代に移行していく端境期を描いていて、映画が変わっていく時代にどういうことが起こったのかを描いています。実は今も(映画界は)端境期にあると思っていて、それは近年、Netflixなどの“配信映画”が本当に映画と言えるのかどうかが、いまだに議論されていて、ちゃんと答えが出てない状況があります。 だから、例えば『バビロン』であれば、1920年代という100年も前の話で、つまり今から100年後の2120年ぐらいになったときには「配信の映画の問題とかあったんだって」となっている可能性もあるんです。 当時サイレントからトーキーになった時代には、音が必要になることによって、仕事ができなくなった人もいれば、それを機会にスターになった人たちもいるっていう、(映画内で)色んな人たちの悲喜こもごもの人生模様が見えるところも、何か今につながるところがあるなと感じていて。例えばこういう過激な描写はダメですということがあったりとか、実際に映画史の中にいた女性の監督が出てきたり、昔のことを描いているんだけど、何か現代につながっていることがあるなと。映画史的な観点からも『バビロン』は今年の映画の中でちょっと忘れてはならない映画の1本だなと思いました。
■3作品から見える2023年公開映画の特徴とは
松崎:3本にまず共通点があって、それは上映時間が長いということ。全て3時間くらいある。(映画が)全体的に上映時間がだんだん長くなっている傾向がある。 ここ20年くらいの話でいうと、特にハリウッド映画の場合は、プロデューサーが一番権限を持っていて、監督に編集権がないわけです。プロデューサーからすると、1日の上映回数が多い方が収益が上がります。例えば3時間の映画と90分の映画があったら、3時間の映画を1回上映してる間に90分の映画は2回上映できるから、90分の方が利ざやが増えるわけですね。昨今はクレジットを見ると、監督自身がプロデューサーに入ることが増えて、編集の権限を監督が持つことで、切れなくなった、それで長くなったっていうのはあると思う。 もうひとつは配信の問題で、配信でやるっていうことは別に2時間だろうが、4時間だろうが、長さ関係ないという。見る側が、長くて見ないのかどうかは選ぶだけの問題で、2時間にしなきゃいけないっていう制約がなくなっている。だんだんと上映尺が長くなるのには複合的な理由があると思いますね。 松崎健夫 映画評論家としてテレビ・ラジオ・雑誌などの様々なメディアで活躍。デジタルハリウッド大学客員准教授、ゴールデングローブ賞非会員国際投票権者、日本映画ペンクラブ会員、国際映画批評家連盟所属