映画評論家が選ぶ2023年の映画ベスト3 ヒット作から見える今年の傾向
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『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』や『君たちはどう生きるか』など多くの話題作が公開された2023年。ゴールデングローブ賞の投票権を持つ映画評論家の松崎健夫さんに2023年に公開された映画ベスト3を選んでもらいました。 【画像】『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』のワールドプレミアに登場したトム・クルーズさん
■人気シリーズ最新作 “見て良かった”と思わせる驚きのアクション
松崎さんが最初に挙げたのは、トム・クルーズさん主演の人気シリーズ最新作『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』。主人公のイーサン・ハントが、全人類を脅かすAI兵器が悪の手に渡るのを阻止するミッションに挑む物語です。松崎さんは劇中のあるアクションシーンに注目したといいます。 松崎:ピョンって飛ぶシーンあるじゃないですか。崖下に落ちるという。(注:イーサン・ハントがバイクで崖から落ちるシーン)本編を見た時に「えっ、これだけ」と思ったんですよ。 何回も何回も飛ぶ練習をして、撮影の準備も実際にやる前に同じようなセットを組んでスタントの練習をするとか、ものすごい準備をかけてあのシーンを撮ったはずなのに、本編見ると本当のわずかのシーンで、あのシーンのためにそんなに時間かけたんだということの驚きと、トム・クルーズの「いやいや、もっとすごいシーンあるよ」っていう自信の表れだったと思うんですよ。 実際、映画を見るともうあのシーンに限らずにいろんな見たこともないアクションもいっぱいあったりして、そのことに驚いたっていうのがひとつですよね。見て良かったと思わせるような、観客の事を大事にしているなっていうところも、僕はやっぱり評価したい。
■東北出身の名匠が“震災”を描く『キリエのうた』
続いて選んだのは、映画『キリエのうた』です。映画は、歌でしか声を出すことができない路上ミュージシャン・キリエが石巻、大阪、帯広、東京で過ごした13年を描く物語。劇中では東日本大震災が描かれ、元BiSHのアイナ・ジ・エンドさんが主演したことも話題となりました。手がけたのは『スワロウテイル』や『リリイ・シュシュのすべて』など数々のヒット作を世に送り出してきた岩井俊二監督です。 松崎:岩井監督は宮城県出身で、今まで『friends after 3.11』のような震災に関するドキュメンタリーや、復興支援ソング『花は咲く』の作詞などを手がけましたが、ご自身の作中で震災のことを描いた作品はなかった。それを今回初めて本格的に映画の中で描いている。身近だからこそ、咀嚼(そしゃく)して作品として昇華させるためには10年以上かかったんだろうなっていうことを感じました。 ストーリーも面白くて、(劇中では)4つの年代が描かれて登場人物バラバラで、これは何を描こうとしているんだろうと思っていたらバラバラだった時間軸と場所がひとつに集約していって、観客の頭の中で物語がつながっていく快感がありました。 そして主人公のキリエ役のアイナ・ジ・エンドさんの歌声。もうあれに尽きるんだと思うんですけど、あの映画でキリエという役の持っている存在感と、そのバックグラウンドみたいなものを彼女は見事に表現していて、「震災」「物語の面白さ」「音楽性」その3つが合わさっているところがこの映画は素晴らしいと思いました。