後の世代に借金のツケを回さない。国を憂うる必読の正論である。―河村 小百合『日本銀行 我が国に迫る危機』橋爪 大三郎による書評
日本銀行はタイタニック号だ。黒田総裁が「異次元緩和」を一○年続け、国債を五六○兆円買い取った。《ひとたび利上げ局面に入れば…数十兆円単位…の…債務超過…が…数十年単位で長期化する》。だから意地でもゼロ金利なのだろう。このままなら氷山と衝突は時間の問題だ。 財政も道連れで破綻する。本年度予算一一四兆円のうち三一%は国債が頼み。歳出も二二%が国債費。将来国債が発行できなくなったら、歳出は国債償還が最優先。残りは《社会保障費も防衛費も…4割カット》になるはず。背筋が凍る見通しだ。 著者は日銀や日本総研で腕を磨いた専門家。《2000兆円を超える家計貯蓄があるから…、国債のほとんどを国内で消化しているから》大丈夫、を俗論と一蹴。敗戦後の政府は、GDPの267%(現状とほぼ同じ)もの国債償還のため、預金封鎖と新円切り替え→高率財産税で財源を確保した。最後はこうなる。 日銀は中央銀行の自律性を取り戻しなさい。日銀と政府の暴走を見過ごしてきた国民も《“甘え”や“無理解”、“無責任”》を脱却しなさい。後の世代に借金のツケを回さない。国を憂うる必読の正論である。 [書き手] 橋爪 大三郎 社会学者。 1948年生まれ。東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。執筆活動を経て、1989年より東工大に勤務。現在、東京工業大学名誉教授。 著書に『仏教の言説戦略』(勁草書房)、『世界がわかる宗教社会学入門』(ちくま文庫)、『はじめての構造主義』(講談社現代新書)、『社会の不思議』(朝日出版社)など多数。近著に『裁判員の教科書』(ミネルヴァ書房)、『はじめての言語ゲーム』(講談社)がある。 [書籍情報]『日本銀行 我が国に迫る危機』 著者:河村 小百合 / 出版社:講談社 / 発売日:2023年03月16日 / ISBN:4065315107 毎日新聞 2023年5月13日掲載
橋爪 大三郎
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