村田衝撃KOデビューの理由
村田が、プロへの転向を決意して、それを実行するまでの、イバラのようなストーリーを書こうかと考えていたが、ここまでで、ずいぶんと行数がかさんでしまった。それは、またの機会に譲るとしよう。 48年ぶりの金メダリストのポテンシャルをデビュー戦で十二分に見せた村田だが、そのファイトスタイルには、抜けきれないアマチュア時代のクセや、本人も反省している「雑さ」もあった。できれば上体をもっと柔らかく動かしたいし、この日、有効的だった右のショートのスキルアップもしなければならないだろう。 元WBA世界スーパーフライ級王者の飯田覚士は「柴田選手には失礼だが力の差がありすぎた。これでは、すぐに世界に行けるのかとどうかを判断し辛い。課題は多いだろう。私が練習で見せてもらった、攻守のバランスの良さや、相手にスキを与えないようなコンビネーションなどが試合では、まだ出せていない。確かの右の破壊力は世界レベルだと思うけれど、ボディ打ちやディフェンスに関してももう一段階レベルを上げたい」と、少々辛口の意見を口にした。 次戦は、12月に国内開催だが、契約をしている世界的プロモーターのボブ・アラム氏は、来年2月にシンガポールのカジノホテルでの興行に村田をメーンイベンターとして起用したい考えを明らかにした。帝拳の本田明彦会長も「ディフェンスに成長を見せた。脇が甘かったが、それがなくなっていた。彼には経験はいらない。いきなり世界戦、世界ランカーとは言えないが、次は格上と当てる」と構想を口にした。 ボブ・アラムに「一緒に世界へ歩みましょう」と話しかけたという村田は、「今すぐゴロフキン(WBA王者)や、クイリン(WBO王者)とやって勝てるかと言えば勝てない。クイリンは、スピード、ゴロフキンはプレッシャーのかけ方がうまい。でも成長すれば勝てるという可能性を自分に感じている」と言った。 私は、試合後、彼に「今日は名言が出なかったな」と声をかけたが、よくよく考えてみれば、彼の名言は、いつも恩師や先輩から拝借してものである(笑)。素直で頭のいい村田らしい、言魂の飲み込み方なのだが、私は、恩師、故・武元先生が、彼によく言っていた言葉を思い出した。 「おまえの拳には可能性が詰まっているんだ」 (文責・本郷陽一/論スポ/写真・平野敬久)