とにかく窪田正孝の演技が上手すぎる…思わず唸ったドラマ前半のベストシーンとは? NHKドラマ『宙わたる教室』考察レビュー
第5話で初めて見せた感情の爆発
毎話魅力的な演技を見せる窪田ではあるが、とりわけ第5話は印象的なシーンが目立った。中盤、藤竹が顧問を務める科学部が「『定時制高校が参加した』という前例がないから」という理由で、コンテストの出場を拒否されたことを教頭(佐藤正浩)から告げられ、藤竹は「そんなの理由にならない」と激高する。 その後、かつての同僚・相澤努(中村蒼)と食事をするシーンで、藤竹は科学部がコンテストの出場を拒否されたことを話す。相澤は「世の中そういうもんだろ」と返すと、藤竹から“光”が徐々に失われていく。 藤竹は「本当にそう思うか?」と詰めると、「参加資格があるとはいえ、毎年出てくるのは名門校ばっかりだろ?」「『前例がない』ってことは『空気読め』ってことじゃないのか?」と言われる。これに藤竹は何も返答せず、ただその表情からは心のシャッターが閉じる大きな音がしたように感じられた。 藤竹が喜怒哀楽の“怒”と“哀”を表出させる珍しいシーンが続き、普段の穏やかな言動とのギャップが働いてそのインパクトは抜群。なにより、理不尽な仕打ちを受けた生徒のことを思って感情が動いており、藤竹がいかに熱い教師なのかがよくわかった。 窪田がここぞという場面で感情を爆発させる力を発揮しているからこそ、その爆発をダイレクトに受け取った視聴者は、藤竹という人間にどんどん惹かれていってしまうのだろう。
「まだ誰もやったことがないからです」 思わず唸った窪田正孝の芝居
ただ、5話で最も印象に残っているのはラストシーンである。火星特有のクレーター“ランパートクレーター”を再現して教室に火星を作れないかと提案する名取に、藤竹は「いいですね、すばらしいです」と絶賛。アンジェラが「うまくいくのかな?」と不安げな表情を浮かべるのに対し、藤竹は「失敗なんてありえないです」という。長嶺から「どうしてだね?」と聞かれると、「まだ誰もやったことがないからです」と堂々と回答した。 この時の藤竹の言い方がとにかく良い。科学はそういった糧の積み重ねで前に進んできた。誰もやったことがなければ、どのような結果になってもそれは糧になる。つまりは成功と言って良い。ここまで背中を強く押してくれるセリフはなかなかない。 実際のところ、藤竹がこのセリフの真意を説明したわけではないので、もしかしたら筆者の見当違いであるという可能性は否めないのだが…。とはいえ、藤竹の口から「失敗なんてありえない」と言い切られると、妙な説得力を感じるし、ここまで理路整然としながらも常に温かみのある言動を見せてきてくれた藤竹の言葉だからこそ、前向きに捉えたくなってしまう。 また、「まだ誰もやったことがないからです」と言うときの、藤竹はドヤ顔を浮かべて おり、どことなく茶目っ気も感じることから、筆者も生徒とたちと同じくついつい頬が緩んでしまった。このシーンは個人的に、何度でも見返したいベストシーンである。 物語も後半戦に突入したことで、このような繰り返し見たくなるようなベストシーンが登場することに期待しながら、今週も窪田の演技に魅了されていきたい。 【著者プロフィール:望月悠木】 フリーライター。主に政治経済、社会問題、サブカルチャーに関する記事の執筆を手がけています。今知るべき情報を多くの人に届けるため、日々活動を続けています。(旧Twitter):@mochizukiyuuki)
望月悠木