まひろの自慢で家族ドン引き…暴走する主人公の傍でこそ輝くキャラクターとは? 大河ドラマ『光る君へ』第37話考察レビュー
ますます充実した内裏ライフを送るまひろ
為時も賢子の孤独に気づいてはいるが、娘であるまひろの大変さも分かっているがゆえに強くは言えない。そんな中で、唯一まひろに気を遣わず苦言を呈することができる惟規の存在は家族にとっても貴重なのではないだろうか。 賢子に「母上なんか大嫌い!」と言われて初めて、娘の深い孤独にようやく気づけたまひろ。だが、彼女は良くも悪くも彰子に頼りにされてしまっている。 まひろが里帰りする直前、彰子が『源氏物語』を一つの冊子にして天皇の土産にしたいと言い出し、女房たちが力を合わせて豪華本を制作する場面があった。その褒美を道長(柄本佑)が持ってきた際にも、みんなで分けるように言われているにもかかわらず、「紙は藤式部に」と他の女房たちの前でまひろを贔屓する彰子。自分のことしか考えていないことを反省し、里帰りするまひろを快く送り出すも、たった数日で「藤式部がおらぬと心細い」と宮の宣旨(小林きな子)に頼んで呼び戻してしまう。 これでは女房たちの反感を買うのも無理はない。さらには一条天皇が完成した豪華本を大絶賛し、「これを藤壺で読み上げる会を開いてはどうか」と提案したことで彰子のサロンが始まる。 「日本紀より物語が上」と暗に示す内容に公任(町田啓太)たちがヒソヒソと陰口を叩く中で、「女ならではの物の見方に、漢籍の素養も加わっているゆえか、これまでにない物語になっておる。藤式部は日本紀にも精通しておるしな」とまひろを褒め称える一条天皇。 ますます充実した内裏ライフを送るうちに、まひろの頭からすっかり賢子のことが抜け落ちている様子なのもリアルだ。
道長のまひろへの想いが、顔から滲み出てる…。
そんな中、内裏である事件が発生。みんなが寝静まった頃、物語を書いていたまひろは女性の悲鳴を聞く。彰子の身の危険を案じ、すぐに現場に駆けつけたまひろ。どうやら内裏に侵入した盗賊が、女房2人の服を剥ぎ取ったようだ。 誰よりも早く彰子のもとへ駆けつけたまひろに、道長はお礼を言う。だが、まひろは女房たちに自分の袿を着せた彰子の行動を讃えた。それを聞いた道長の顔。「やっぱり、まひろしか勝たん…」という顔をしていて、道長の中でまひろに対する愛情がどんどん深まっているのを感じた。 一方で気になるのは「敦成親王様は次の東宮となられる方ゆえ」という道長の台詞だ。その後、伊周(三浦翔平)が一条天皇から正二位の位を授けられる。 それは大臣に準ずる位であり、第一の皇子・敦康親王(渡邉櫂)の後見と、第二の皇子・敦成親王の後見として並び立った2人。しかし、道長の中ではすでに敦康親王を差し置き、孫である敦成親王を次の東宮に据える算段がある。それは果たして国のためか、それとも己の権力のためか…。 「お方様=倫子(黒木華)だけは傷つけないでくださいね」と赤染衛門(凰稀かなめ)に釘を刺されたまひろは道長の変化に気づいても、ただ見ていることしかできないのだろうか。 【著者プロフィール:苫とり子】 1995年、岡山県生まれ。東京在住。演劇経験を活かし、エンタメライターとしてReal Sound、WEBザテレビジョン、シネマズプラス等にコラムやインタビュー記事を寄稿している。
苫とり子