衆院補選で示された「政治への怒りと諦め」…与野党ともに求められる変革 豊田真由子が読み解く衆院補選結果
長崎3区
勝利した立憲の山田氏は、現職の衆院議員(1期)で、父親の正彦氏は、民主党政権下で農林水産大臣を務めました。所属政党をたくさん変わられましたが、政治の世界には、「どこの政党に移ろうとも、『その人』を応援し続ける」という強固な支持者が存在し、「〇〇(候補者の姓)党」と呼ばれたりします。“お父さんに世話になった”は、地元でも永田町でも、大きな強みで、“地盤看板カバン”といった言葉では片付けられない、応援のエネルギーがあったと思います。 維新の井上氏は、長崎県には維新の国会議員も地方議員もひとりもいないという状況下で、奮闘されたと思います。やはり、国政を空中戦だけで戦うのは容易なことではなく、維新が全国政党化を目指す中で、地方議員や首長を増やし、地力を強くしていくことが不可欠であることを改めて示しました。 自民党は、今回候補者を擁立しませんでしたが、衆院の新1区から3区の支部長はすでに決定している中(1区は元県議、2区・3区は現職衆院議員)、今回の補選に候補者を立てても、次の選挙で行き場が無いという事情がありました。ただ通常は、勝つ見込みがあって、候補者を立てて勝った場合には、次の衆院選で比例に回す、といったことが行われますので、やはり、今回は不戦敗にせざるを得ない、という苦境を象徴していたと思います。 長崎は前回知事選が保守分裂でした。どこの地域でもそうですが、国政での勢力図の変遷は、地方選挙にも影響することになります。 長崎県では、国会議員は、衆が自民2名、立憲2名、国民1名、参が自民2名。県議(定数46)は、自民30、公明3、立憲3、国民3、共産1となっています。 ――――――――――――――――――――――――――― 今回の補選結果を受けて、解散・総選挙がいつになるか、自民総裁選がどうなるか、といった政局の論議がさかんに行われています。いつも思うのですが、議員自身が次の選挙で当選するかどうか、党内力学がどうなるかといったことは、もちろん、当事者にとっては、極めて重大な関心事なわけですが、国民が望むのは、あくまでも、国民のことを真摯に考え、その不安に応え、国民と日本国の将来にとって、より良い政策を実現してもらうことであり、政局に明け暮れる永田町の人々の姿は、国民に一層の政治不信を湧き起こすだけではないだろうかと思います。 そして本来は、政権を担う実務能力を有する政党が複数存在し、政権交代が適時行われることが、政権運営に緊張感を生んでいくはずなので、逆に言えば、「政権交代が起こらない」ことが、現下の日本政治の大いなる停滞の要因のひとつといえるとも思います。 与党も野党も、自身や自党の勢力拡大ばかり考えるのではなく、そうしたことはあくまでも、政治においてより良い政策を実現するための「手段」であるという認識の下、国民に寄り添い、山積する課題に対処し、日本国の強く明るい未来を着実に作っていく、という「目的」の実現のために、ちゃんと働いてもらいたいと、国民の皆様は思っていると思います。 ◆豊田 真由子 1974年生まれ、千葉県船橋市出身。東京大学法学部を卒業後、厚生労働省に入省。ハーバード大学大学院へ国費留学、理学修士号(公衆衛生学)を取得。 医療、介護、福祉、保育、戦没者援護等、幅広い政策立案を担当し、金融庁にも出向。2009年、在ジュネーブ国際機関日本政府代表部一等書記官として、新型インフルエンザパンデミックにWHOとともに対処した。衆議院議員2期、文部科学大臣政務官、オリンピック・パラリンピック大臣政務官などを務めた。