日本の空間が西洋に比べて「流動的」な理由は精神的背景にあった。建築家・早草睦惠おすすめの本
建築やデザイン、アートが好きな人、建築や空間デザインを学びたい人、学んでいる人なら、美しい建築作品を生み出す建築家がどんなことからインスピレーションを受けているのか、きっと気になるはず。そのヒントを知ることができるのが、建築家自身が影響を受けた本です。 【写真集】建築&デザイン好き必読!有名建築家おすすめの本 今回は、自然を感じながら心地よく包まれる空間づくりをモットーに数々の住宅作品を手掛けている、建築家の早草睦惠さんに自身が影響を受けた本について教えていただきました。 【Profile】 早草睦惠/Mutsue Hayakusa 1963年生まれ。1986年東京大学工学部建築学科卒業。88~91年日本設計を経て、91年現事務所を設立。お茶の水大学非常勤講師。主な賞歴にグッドデザイン賞、東京建築賞、中部建築賞などがある。
日本独自の流動的な空間が生まれた背景は「無常観」
――どんなところに影響を受けましたか? 日本建築ひいては日本文化全般の特質である継時的な視点を明快に論じていることです。近世以降の日本の建築空間は、中国や西洋の座標軸に縛られた幾何学的な空間(ベルサイユ宮殿等)ではなく、人間の運動を前提とした流動的な空間(江戸城本丸、回遊式庭園等)であること。行動的空間では、進むにつれ次々と変化する空間の継時的な展開が追求される。そのために、動線は屈折、旋回、部分を細分化して絶えず視線を遮断するなど、左右非対称、自由な配置になります。 こういった日本独自の空間構造をつくり出した精神的背景は、世界を時々刻々と変化してとどまらない流動的な現象と見なす無常観によるもの。大学時代に読み、私の建築の考え方の根幹をなしています。
人が揺れ動き移動することを前提にした空間構成
――影響を受けたことが実際の住宅作品にどう表現されていますか? 視座を固定し、定点から見たときの空間の在り方でデザインが決まるのではなく、さまざまに揺れ動く人間の移動のなかで、自然の移ろいを自由に体験できるように居住空間がどう立ち現れるかを、移動を前提として、空間の構成を検討しています。 少し移動すると感じ方が全く違う空間ができる。設計の検討も移動を前提としたパースをクライアントと共有して、継時的空間づくりを、クライアントとともに行っています。 そして、この継時的空間は、多様性を持ち合わせますので、自然の移ろいや豊かさを感じる機会を増幅して、より自然とつながる住まいを実現すると思います。移ろい=継時的な体験が住空間を豊かにすると考えています。
いかがでしたか?「日本らしい空間とは何か」を学べる一冊なので、建築や空間デザインを学んでいる人には特におすすめです。ぜひチェックしてみて。